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まだ生きている。

177.まだ生きてる

フィンランド語で、英語のハウ・アー・ユー? にあたる表現はミタ・クールー? である。返答はどうだろう?

英語だと、ファイン、サンキューがふつうだろうか。それに対するのは、フィンランド語ならキートス、ヒュヴァー。あるいは、イハン・ヒュヴァーといったところ。

でも、こういった社交上の定型文をフィンランド人はさほど重視していない印象がある。たいして親しくない間柄ならともかく、仮に「調子はどう?」と親しい友人に尋ねれば、「まあまあ」とか「いまいち」とかその時々のコンディションに応じた素直な反応が返ってくるのではないか。

そこで思い出すのは、かつてmoiでフィンランド語クラスを主宰していたリーサ先生のことだ。「ミタ・クールー?」と軽くあいさつがわりに尋ねると、

オレン・ヴィエラ・エロッサ

と答えてニヤッと笑うのがいつものパターンだった。オレン・ヴィエラ・エロッサ、つまり「まだ生きてるよ」である。そしていま、ぼくはこの「オレン・ヴィエラ・エロッサ」という生存確認のフレーズがとても恋しい。

新型コロナウイルスの感染拡大が始まって以降、ぼくらにとって「死」はこれまで以上に身近なものとなった。すくなくとも、場合によっては「死」をもたらすことになる見えないウイルスの存在は、ぼくらにとって他人事ではなくなった。21世紀型メメント・モリの到来。

でも、いや、だからこそ、ひさしぶりに会うことが叶った友人とは「ミタ・クールー?」「オレン・ヴィエラ・エロッサ」、まだ生きてるぜと満面の笑顔で言い合いたいのだ。

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