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【映画&本】ゴースト・ワールド Ghost World/テリー・ツワイゴフ ダニエル・クロウズ

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タイトル:ゴースト・ワールド Ghost World 2001年
監督:テリー・ツワイゴフ
原作・脚本:ダニエル・クロウズ

先日、オリヴィア・ワイルド監督の「ブックスマート」を観たのだけれど、どうもしっくりこない。出てくる高校生がみんな優等生で、スクールカーストはありながらも、なんだかんだみんな仲良くしている。鬱屈したキャラはいないことも無いんだけど、お先真っ暗かといえばそんな感じでも無い。悪い映画ではないのだけれど、そこにある関係性のフラットさと、スクリーンを眺める自分の間にどうにも出来ない壁と溝が立ち塞がってる。なんだろう?彼ら彼女らは全然ダメな人生じゃないし、LGBT的な描き方も鬱屈感ゼロで当たり前に登場する。それはそれでいいのだけれど、どうも引っかかる。
リチャード・リンクレーターの「エブリバディ・ウォンツ・サム」のマッチョだけど、あっけらかんとした馬鹿さとも違う。劇場を後にした後も何か悶々とした気持ちが収まらなかった。
そんな中、久しぶりにテリー・ツワイゴフの「ゴースト・ワールド」を観てそこにある自滅的な八方塞がりなストーリーに「そうこれだよ!これ!」と声にならない声をあげた。
「ブックスマート」も「ゴースト・ワールド」も高校卒業間際の話ではある。けれど、後者は鬱屈加減にまみれている。イーニドとレベッカは常に他人を小馬鹿にしていて、自分が正しいと思い込んでるし、今自分がいる場所の退屈さに嫌気がさしている。でも自分たちは他の人と違う何かであると信じていながらも、特にそこから抜け出す目的を持って行動してる訳でもない。ただ単にサブカルを拗らせた高校生ともいえる。わかりやすいのが、イーニドは衝動的に髪を緑に染めて1977年のUKパンクスタイルで身を包むけれど、より危険なところ、例えばサイコビリーみたいなところまで突き進まないところが彼女の半端さにも思える。イーニドの心を支えているのは初期衝動であっても、自分は他人と違うと言い張ってるだけでしかない。対してレベッカは着実にそのラインから抜け出そうとしている。
原作と映画はキャラクターは近いものの、話はかなり異なっている。
退屈だとレッテルを貼った街で生きようとするレベッカの姿は、映画では着実に大人の世界へ足を踏み出しているのに対して、原作では相談もなく街を去ろうとするイーニドから置き去りにされる気持ちから孤独感が強く出ている。

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イーニドは奔放な行動や結末はどちらも同じながら、原作では街を出る準備を着々と進めているけれど、映画では場当たり的な行動がより強く出ている。映画で決定的なのが後半に出てくる”事件“の部分。描き方が巧みなのが、事件の最中にイーニドは出てこず自分の知らない所で、炎上している様子が描かれている(巻き込まれるシーモアが心底気の毒でもある)。自分が巻き起こした出来事ではあるものの、その一挙一動が彼女の人生を破滅に導いて八方塞がりにしていく様に、観ているこちらもドスンと重しを乗せられている気分にさせられる。

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原作では強がるふたりの幼さも描かれていて、喧嘩別れした後のふたりそれぞれの姿は、この話のクライマックスでもあるけれど、映画ではその場面は登場しない(近いシーンは出てくるけど、少しニュアンスが違う)。

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原作で登場する奇人の多くは流石に映画に登場させるには、あまりにも倫理観がアレなためか大半が削られていて、それらのキャラクターは映画のみ登場するスティーヴ・ブシェミ演じるシーモアとその仲間たちに集約されている。SP盤コレクターという奇特なキャラクターは、自身もコレクターだというテリー・ツワイゴフのオルターエゴになっている(他人事とは思えない)。

途中ガレージセールで登場しシーモアが「まあまあだね」と烙印を押すロバート・クラムのレコードはテリー・ツワイゴフもメンバーで加わったアルバムで、そういった自虐的な細かいネタもユーモアが効いてる(このアルバム最高です)。

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少し脱線するけれど、ブシェミをみているとだんだんとデヴィッド・ボウイに見えてくるのは、ちょっと前にTwitterでGIFで出回ったから自分だけではないはず。

原作のダニエル・クロウズが脚本を担当しているので、原作の世界観はそのままに、ユーモアを加味した内容になっている。マーベルなどのアメコミとは違うオルタナティブ・コミックで描かれる社会の閉塞感は原作の方が強いものの、後読感に残る心の隔絶はどちらもしっかりと根付いている。映画冒頭の誰の為に放映しているのかよく分からないモハメド・ラフィの映画を、暗がりでただ眺める人々の姿が映画に出てくる人々の生活の全てなような気がする。

今上映している「ラスト・ブラックマン・イン・サンフランシスコ」で二十年後のイーニドがちらっと出てきて変わらずの悪態をついてるので、ファンは必見…というほど出てないけど。

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因みにコミックのソフトカバー版はプレミアがついてますが、プレスポップのサイトでハードカバー版が今でも買えます。

日本国内の映画の版権は切れてしまったようで、中古のDVDを手に入れるか、レンタルするしかないようです。配信も無し。アメリカのクライテリオン版はダニエル・クロウズのジャケットでリリースされていて、そのまま日本盤が出ればいいのに…。

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サントラは先日アナログリイシューが出たので、まだ手に入りそう。

ダニエル・クロウズ以外のアメリカン・オルタナティブ・コミックについてはまた別の機会に書こうかなと。

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