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【映画】チャレンジャーズ Challengers/ルカ・グァダニーノ


タイトル:チャレンジャーズ Challengers 2024年
監督:ルカ・グァダニーノ

グァダニーノの近作は突飛さが上回っていて、どうも空回りしてる感があってしっくりこなかった。本作は本国でのヒットと、観た人の評判の割に日本ではあまり客足の伸びが悪いという苦戦を強いられているという。日本では中々キャッチーさに欠ける印象は否めず、まあ仕方ないかなと思う反面、これが観られていないのはやはりちょっともったいない。それくらい良くできた作品なのが、観た人たちの中だけで完結してしまって広がらないのが本当にもったいない。
時間軸が行ったり来たりする中で、ひとつひとつの出来事が丁寧に重なり合ってラストに至るカタルシスへと躍動する。いわゆる会話劇がスムースでは無くぶつ切りになっているキライはあれど、肉体が生み出す高揚感は、カメラワークを含めて高みに達している。テニスが主題なのに、テニスの試合自体は躍動感を伝えるだけの手段に収まっていながら、それがちゃんと活きている手腕には驚かされた。グァダニーノも特段テニスに詳しいわけではないとインタビューで語っているが、逆に演者側のいかにもテニスプレイヤー然とした佇まいは引き込まれていく。
男ふたりと女ひとりの三角関係の危うい情事を、テニスという人生を絡めて描いている作品なのだけど、挫折と成功がテニスと三角関係とリンクしていて、その描き方はホントに見事。将来有望だった人物が転落し、かつ転向し、見込みの無いと思われた人間が大成する皮肉。あるべき場所におさまりつつも、三角関係が織りなす物語は過去の出来事と現在が影響し合いながら、なし崩し的に更新されていく。プロの世界に私情が持ち出される稚拙な感情の揺れ動きも含めて、それら全てがどこか生々しい。三人ともあるべき姿に収まりきっていないというか、自分の中にある可能性を常に求めつつも、座りの悪さの中に常にいる感覚がある。ある時期に成功を予見しながらも、成功しきれない現実と、三人の関係の終着点だと思った場所の未完結なだらだらとした形が常に変化を生む。
終わる事が出来ない事への執着が、プロテニスプレイヤーと三角関係にオーバーラップしている様がフィジカルに訴えかける。下世話ではあるが、コートのプレイが肉体的な情事をも映し出している。面白い事にヘテロセクシャルな関係なのに、ホモセクシャルな関係性までも炙り出している。三人でベッドを共にするのか?というシーンで、男ふたりが熱烈なキスシーンを演じていたり、太腿に手を当てたりと、どこかホモセクシャルな動作も多分に含まれる。
そう考えると、三人の関係は男女の関係というよりも、性を超えた繋がりを持ちつつ、自分がのしあがるための足がかりとしても機能している。恋愛感情とテニスプレイヤーとしての想い。関係性の連なる先にあるラストは、その関係を保ったまま最高潮へと誘うグァダニーノの手腕が発揮された作品だったと感じる。
トレント・レズナーとアッティカ・ロスの黄金コンビによるサントラは、監督のオーダーにあったハウスっぽい音楽が当てこまれたものの、若干トゥーマッチな感もあった。ちょっと音に依存しすぎているというか、躍動感を音楽に任せすぎていてうるさい印象もあった。
しかし一方でカエターノ・ヴェローゾのフィーリンカバー集に収録された「Pecado」を、一番重要なシーンに盛り込んだのは流石。カエターノの歌とモレレンバウムのチェロの音色が、三人の情事に彩りを添えて、ダイレクトなセクシャリティは抑えつつ官能的な場面を醸成していたのは、本作の見どころのひとつとも言える。


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