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【映画】マリア・ブラウンの結婚 Die Ehe der Maria Braun/ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー


タイトル:マリア・ブラウンの結婚 Die Ehe der Maria Braun 1979年
監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー

銃弾が飛び交うベルリンで挙式を挙げる冒頭シーンの突飛な始まりから分かるように、真顔で冗談を言うようなめちゃくちゃで滑稽な始まり方に笑いが込み上げる。ベルリンが戦場になっている時点で第二次大戦末期なのが分かるし、マリアの夫がナチという時点で立場は危うい。どこまでユーモアとして描いているのか、はっきり線引きしない所にファスビンダーの面白さと、いい意味での意地の悪さを感じる。
主人公マリア・ブラウンが戦後の混沌を生き抜く話ではあるものの、話が一転二転して取り留めない感はある。ひとつひとつの行動が場当たり的な感じではあるが、頭から終わりまで貫かれているのは、彼女は夫ヘルマンへの夫婦の愛と忠誠のもとに行動している。米兵とデキたり、資産家の男と愛人になりながらも、誰か他人の指示や行動に翻弄されたり流されたりするのではなく、立脚した女性というよりも本質的に自分らしく生きる様が根底にある。そう考えるとこの映画が、家父長制を逆手に取ったフェミニズムをテーマにしたものだという事が見えてくる。究極の「女性映画」と謳っているのはそういった部分であり、自分のための道を切り開いていく様が小気味よく描かれる。戦後に女性がひとりで生きていく物語というと、大抵時代や男性社会に翻弄されるものだったりするし、男性主体で都合のよい解釈が常だったりするのに、この映画では全くその要素がない。
波瀾万丈でありながらも、男性たちはオロオロとしながらマリアの気丈さに翻弄される。最初から最後まで、マリアの動機は全てを自分で決めて行動していて、ミソジニーの入る余地が無いくらい徹底されている。こんな作品が70年代後半にすでに作られていたのは脅威的であるし、今の女性監督の作品へと連なるテーマを用意していたファスビンダーの視点は、まさに今観るべき作品だと痛感する。
マリアを演じたハンナ・シグラの魅力がとにかく満遍なく引き出されている。顔立ちの美しさに限らず、所作振る舞いのキレと妖艶さの凄み。ヌードはあれど、それ以上に体のアウトラインを撫でる様子や、下着姿の立ち振る舞いの方が輝きをみせる。弱さと強さがあい混じった彼女の演技こそが、この映画の真骨頂であり物語以上に饒舌にドラマを繋ぎ止める。
破滅的な彼女の姿と、始まりから10年経ったラストのドイツの在り方がオーバーラップし、全てを破壊するラストの壮絶なエンドクレジットにファスビンダーの破天荒な作家性も強く刻まれる。
家父長制を破壊するファスビンダーの視点は、現代の女性監督へバトンを渡している様に感じられる。

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