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【映画】アステロイド・シティ Asteroid City/ウェス・アンダーソン


タイトル:アステロイド・シティ Asteroid City 2023年
監督:ウェス・アンダーソン

相変わらずの徹底した構図とカラーリング、書き割りのような景色がいかにもウェスな感じ。なのだけど一本調子で物語としてはすごく単調だった近作に比べると、入れ子構造の本作は中々に複雑。「アステロイド・シティ」という舞台を作るまでの過程がモノクロームで描かれながら、それと並行して「アステロイド・シティ」の映画がフルカラーで描かれる。舞台裏と映画の物語が一応は呼応しながら進むものの、重なり方がずれていて混乱してくる。演者の抱える心のうちと、映画のキャラクターの設定が異なるのは、よく考えれば当たり前なのだけど、そのふたつの表裏を結びつけようとしてしまうためか追っていくのが大変ではある。セリフの多さも中々飲み込みにくい。
けれども掴みどころのない荒唐無稽とも言える映画の進み具合に異を唱える辺りから、メタな構造が感情に訴えてくる様子に近作とは違う感動があった。バルコニーでのマーゴット・ロビー扮する亡くなった妻役との会話は、この物語で一番描きたかった場面だったのではないかと感じられた。妻の死に向き合えないオーギーというキャラクターが抱えた喪失が、シーン丸ごとカットという喪失と重なりあい現実と虚構が混ざり合う。全編無表情で貫かれるウェス節はここでも保たれながらも、何か心にグサリと刺さる感動が呼び起こされる。舞台を投げ出した先に映画では描かれないシーンが言葉で語られる時、映画の中での行動がオーバーラップし失われたものと、それに追い縋る事への諦念が舞台裏で綴られる。感情に訴えるものを極力排した近作には無かった表現に、ふと感情が持っていかれる。このシーンがこの作品のハイライトなのは間違いないと思う。
「フレンチディスパッチ」と同様に数々の元ネタが配置されているが、オーギーは明らかにはヴェトナム戦争で顔面に重傷を負ったユージーン・スミスがモデルで、ミッジはマリリン・モンローなどがモデルと思われる。UFOといえばロズウェル事件があるし、ネバダの核実験など第二次大戦後の冷戦もキノコ雲に現れている。
過去作にも出演していたキャストが今回も多く参加しているが、カントリー楽団にウォッシュボードでジャーヴィス・コッカー(完全に見落とした!)と、「ライフ・アクアティック」で独特なデイヴィッド・ボウイのカバーを歌っていたセウ・ジョルジがギタリストで出演していた。楽曲もセンス良く、レス・バクスターやレス・ポール&メアリー・フォード、ビル・モンロー、エリザベス・コットンの歌唱で知られるFreight Trainなど50年代らしい曲が並ぶ。

ウェス・アンダーソン作品に対して食傷気味な感は否めないのだけど、近作の中ではかなり良い作品だったので、近作を観て敬遠気味な人ほどおすすめしたい。ここの所の作品の中ではちょっと埋もれてると思うので。

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