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【映画】バービー Barbie/グレタ・ガーウィグ


タイトル:バービー Barbie 2023年
監督:グレタ・ガーウィグ

待ちに待ったグレタ・ガーウィグ待望の新作!
ただ先日のアメリカ本国の下手なプロモーションのせいで割を食ってる感じもある。二日目の朝イチで場内で入りは半分くらいかな。

足手まといなプロモーションの影響に限らず、バービーという映画のイメージから国内のプロモーションも世代を広く取ってるような印象があった。一番顕著なのが予告のラインナップで、子供やカップル向けの作品が多く、ライト層を狙ったものばかり。日本国内では年齢制限はないものの、アメリカではPG-13指定で子供向けの映画ではない。恐らく「Vagina」と「Penis」などのワードや言葉遣いなのだろうけど、この辺りは日本語訳がストレートに出てこないので(というか出せない)その違いもあるのかなと。隣の席はティーンの子供連れの欧米の家族だったけど。
冒頭のキューブリックの2001年オマージュはかなり笑えるんだけど、全体的にハイコンテクストなコメディが大半を占めている。映画や文学、歴史、社会、そして本作で一番重要なフェミニズムをちゃんと踏まえて観るかどうかで受け取り方が全く異なってくると思う。
バービー(とケン)が社会構造に気づく所から映画が変化していくのだけど、この映画の一番の根底はやはりバービーが登場したアメリカの1950年代の家父長制の名残りである。図らずもその家父長制の象徴としてのバービーの存在をあぶり出している。バービーの世界が女性主体で成り立っていて、政治や社会の中枢は全て女性。沢山いるケンは添え物でしかない。現実社会の裏返しとなっていて、男女がひっくり返ったこの状態は実は家父長制ならぬ家母長制の中で、ケンたちは曖昧な状況でバービーたちのなすがままに生きる。ケン達が反旗を翻し作り上げたケンダムは、実のところ男女が入れ替わっただけの世界でしか無い。そこから考えるのを辞めたバービーたちに、意思を与えていく下りがあるものの、実はバービーに限らずケンや他のキャラクターへの意識の芽生えを促している。ステレオタイプな男性像と女性像からの脱却と進歩。バービーの世界では男性を追いやるのではなく、一歩ずつ立場を突き進める事を助長する。これは現実世界での男女の在り方を提示していて、フェミニズムという運動が男女の立場を極端に入れ替えを求めるのではなく、着実に推し進めるべきとガーウィグが提案しているようにも伺える。フェミニズムとは、女性が世界を牛耳るための運動ではなく、男女の立場ががイコールになるまでの運動である事なのだという事である。そこを受け取り間違えると、ここにあるテーマは見えてこない。男性も女性も自分らしく立脚する事が全てであって、性別で優劣をつけるべきではないというのが本筋である。女性のマンパワーを促しながらも、一方で男性へのエールでもある。この辺りのバランスは、ガーウィグとバームバックのバランスの良さとも取れる。
それにしても男性にとっては耳の痛い作品でもある。「ゴッドファーザー」の下りや、ペイヴメントのスティーブン・マルクマスがルー・リードの
影響で云々など、所謂マンスプレイニングと言える男性主体のつまらない話は身に覚えがありすぎてグサグサ刺さってくる(僕も妻からまた始まったよという顔を今でもされる)。
ラストは鑑賞中は意味が分からなかったが、死と生の対比だったのではないかと思った。所謂男性で言うところのミドルエイジクライシスに陥ったグロリア(アグリーベティのアメリカ・フェレーラ)のタナトスが、エロス(性的な意味合いよりも生きる事)へと変化した事だったのかなと。
シュガーコーティングされたバービーの世界も、家父長制に内在される世界である事の気づきを描いたのは凄い。元々は主演のマーゴット・ロビーが主体となった企画のようで、監督、脚本、配役、音楽全てがコンセンサスが取れた作品だった。
ただ映画としての作り込みは少し疑問が残る。セットや世界観の作り込みは徹底しているものの、キャラ設定が少し一本調子な感があるのと、メタな描写に取ってつけた感じが否めない所が目立つ。物語が社会への痛烈な皮肉ではあるものの、映画として痛烈な面白さまでは昇華出来ていない消化不良な部分はあった。しかし、バジェットの規模とこれだけの内容をヒットさせるガーウィグの存在は心強い。マンブルコアからA24を経由して、インディペンダントからメジャーへと足掛かりを掴む彼女の足跡は讃えるべきだと思う。マンブルコアの頃だけを称賛するよりも、大きなバジェットで自分の言いたい事を社会に提示するアティチュードは素晴らしいと思う。とはいえ、作品としての深みを次作以降深掘りして貰えたらと強く願う。
サントラはリゾやデュア・リパ(人魚役でも!)、ニッキー・ミナージュ、チャーリーXCX、ビリー・アイリッシュ、ハイム、ピンクパンサレスなどナウなミュージシャンの起用は流石。テーム・インパラやサム・スミス、スコアを担ったマーク・ロンソンなど抜け目がない人選。

ひとつ苦言。鑑賞は日比谷Tohoのプレミアスクリーンで観たのだけど、低音を効かせすぎて映写機がぶれていた。トリートメントされていない低音は、音圧の低いただ単に音量を上げただけの仕様でちょっといかがなものかと。音圧に対しての無理解と、技術的な稚拙さはちょっと残念。プロの仕事じゃないよな。劇場が音を理解してないのがバレバレ。何がプレミアムだと言いたい。

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