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【映画】ヴェロニカ・フォスのあこがれ Die Sehnsucht der Veronika Voss/ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー


タイトル:ヴェロニカ・フォスのあこがれ Die Sehnsucht der Veronika Voss 1982年
監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー

この映画で描かれた、過去の栄光とそれに対し妄執する女優の話と言えば、真っ先に思い浮かぶのがビリー・ワイルダーの「サンセット大通り」で、ファスビンダーも漏れなくこの映画から影響を受けているらしい。ノワールなサスペンスの傑作としてデヴィッド・リンチなど多くの映画監督に影響を与えているが、戦後のアメリカでリアムタイムで描かれた「サンセット大通り」に対して、ニュージャーマンシネマの文脈で80年代に作られた「ヴェロニカ・フォスのあこがれ」ではファスビンダーの方が分が悪い。けれども、この映画が「サンセット大通り」をそのままトレースしたかというとそれも違う。東西に分かれていた時代のドイツの現状を踏まえて、戦中と戦後のドイツ国内の市井の人々を描いているところがファスビンダーらしさなのではないかと。
ヴェロニカ自体がナチス時代のプロパガンダ映画に出ていた女優で、戦後はナチスとの関係を否定してはいたもののべったりな関係は筒抜けで、前時代の感覚が抜けきれていないのは、彼女の細い眉毛で分かる。輝かしい過去は照明が光り輝く冒頭の撮影シーンや、妄想の中のパーティ(実際に行われていたのか妄想なのかはっきりと判別し難い)で輝く彼女の姿が映し出されている。
現実には、豪奢な家は差し押さえられていて、精神科医のカッツに彼女の生活は牛耳られている。モルヒネを使い薬中にさせられた挙句、マインドコントロールされてしまい、支離滅裂な行動を起こすヴェロニカの姿は着飾ったドレスと寝巻きしかない。
ホロコーストを生き抜いたユダヤ人の老夫婦もカッツによりモルヒネ中毒にされていたり、戦後のドイツの闇も描いている。
ノワールなサスペンスとして物語の造りは素晴らしいが、それ以上にモノクロ映像が生み出す画の美しさが強く印象に残る。夜の闇と精神科医の病室の白亜の壁の対比。戦中の大女優というヴェロニカの存在感と、没落した現在に対して抗おうとするドレス姿の立ち振る舞いと輝き。
ヴェンダースがアメリカへの憧れを包み隠さず出していたように、この映画もファスビンダーなりのアメリカーナを感じさせる。バンジョーを使ったカントリー風の曲が流れたり、「サンセット大通り」などの戦前戦後のアメリカ映画と、ドイツの戦前戦後の映画がマッシュアップされながら、敗戦を期したドイツのアメリカへの視点というのが、この映画の根幹にあるのではと強く感じた。1955年という舞台の作り込みも、ファスビンダーの強いこだわりを感じさせる。ラジオで流れるNATOの話など、新たな冷戦時代の現在でも無関係とは言えない状況に時代は廻り巡っている。


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