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【映画】エロス+虐殺/吉田喜重


タイトル:エロス+虐殺 1970年 (ロングバージョン)
監督:吉田喜重

太陽光のシーンでの露出オーバー気味で粒子感の目立つ淡く幻想的な映像。全編に渡って作り込まれた極端な構図は、60年代の不条理映画の特色ではあるものの、ここまで全てに注力した作品は他にはないと思う。実相寺昭雄の諸作や、川島雄三の「しとやかな獣」、近作だとシン・エヴァンゲリオン辺りで極端で面白い構図は見受けられる。しかしそれらの作品以上にインパクトがあるのは、この時代が持つ勢いもパッケージされている事なのかもしれない。語り合う静かなシーン(とはいえ会話の内容も小難しくしようとしていてこちらも集中力を要する)も多いのに、不安定な構図も相まって、くんずほぐれつなシーン以外も妙な緊張感がある。
ロングバージョンを観たので3時間越えという延々と続く終わりの見えない物語の中で、些か満腹感は否めないものの、映像的な面白さが最後まで続いていたのは凄い。
ATGらしい雰囲気や観念的なセリフ回し、全共闘に共振するように現代の若者(原田大二郎が若い!)とアナーキストだった大杉栄と伊藤野枝らの日蔭茶屋事件と甘粕事件(ラストエンペラーでも登場した甘粕)が、1969年当時の現代と交差する幻想的で不条理な作品でもある。貼り付けた吉田喜重のインタビューにもある様に、二つの時代1923年と1969年を結びつけるために、あの構図やオーバー気味な淡い映像を非現実的な描写として意図して描いた事が語られていて、あえてわざとこの造りになっている。
大杉栄と伊藤野枝については何となく話を聞いた事があるくらいだったのだけど、テーマ自体は婦人参政権や家父長制などかなり今に通じるものがあるように感じられた。フェミニズムをアナーキズムでぶち壊そうとした人々ではあるものの、第二次大戦終結後にアメリカによって民主化が進められた事で、ある程度の形になったのは時代の巡り合わせというか皮肉というか。そんな彼らが軍人によって虐殺された事の重みも感じる。

一柳慧によるサウンドトラックは、プリペアドピアノなどを使った不条理なサウンドがメインテーマに添えられているが、時折り流れるジャズロックはエイプリルフールによるもの。細野晴臣と小坂忠は不参加。


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