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【映画】若き仕立て屋の恋 The Hand/ウォン・カーウァイ


タイトル:若き仕立て屋の恋 Long Version The Hand 2004年/2019年
監督:ウォン・カーウァイ

ミケランジェロ・アントニオーニの呼びかけで作られた短編集の一編が、ロングバージョンで公開された。週ごとに映画館をキャラバンしていて、僕が行った日は満席だった。先日リリースされた2046のブルーレイ特典に収録されていたもので、昨年の映画祭では上映されなかった一作。昨年に続き今でもウォン・カーウァイの人気の高さが伺える。
撮影時期が2046と同時期という事もあって、映画のテイストもかなり近い。高級娼婦役のコン・リーと仕立て屋役のチャン・チェンのふたりの物語で、花様年華の雰囲気と、2046のエロティックさが合わさった様な内容になっている。英題が「The Hand」となっている様に、手が意味する部分が物語の根幹になっている。冒頭の娼婦の喘ぎ声や、仕立て屋の股に手を回すシーンなどストレートな性描写を挟みつつ、距離を詰める事が出来ない仕立て屋の恋慕するもどかしさが切ない。誰よりも娼婦の体を手を通して知っているのに、服一枚隔てた肉体にまではその手は届かことがない。作業台の上に広げた服の中に手を這わせるシーンは、彼の手の中に残る彼女の温度や肌を想像しながら愛撫する事を夢想する。届かぬ想いの歯痒さが、手を通して描かれていて切なさが込み上げてくる。一方娼婦としての彼女ができる事は手淫であり、お互いの手を通じて想いを伝える所はまさに「The Hand」というタイトルが意味する所でもある。
奇しくも、この映画が作られたのはSARSが流行していた時期に辺り、コロナ禍と似た状況だったという。

「人々が常に互いに意識したのは『何にも触れてはならない』ということでした。私たちは、いつも手を洗わなければなりませんでした。常に触れるだけで感染する恐れがつきまとう。私は“触ることについての映画を作る時が来たのかもしれない。それが、どのように伝染するかについて”と考えました。それはSARSについてではなく、“エロス”の話になったのです」
ウォン・カーウァイ

https://amp.natalie.mu/eiga/news/520399

人と直に触れる事が出来ない現実が、物語とリンクしている。まさかその二十年弱過ぎた時代に同じ様な事になっている今だからこそ、このテーマはリアルに戻ってきている。
花様年華と2046と同様にチャイナドレスが多く登場しているが、こちらはよりドレスの官能性が際立っている。
少し残念なのが、全体の色味やカットがイマイチキレが無く、もたっとしている感じがある。撮影はこれまでと同様にクリストファー・ドイルが担当しているが、映像の甘美さがあまり感じられない。フィルムではなくデジタルカメラっぽい映像に見えるが、どうなのだろう?あわせて花様年華と2046を観たが、やはりこちらは映像の甘美さと計算し尽くされたカメラワークが目を引く。
とはいえ、こういった作品はこの先作られる事は無いだろうから、この時代の作品を新たな形で観ることが出来るのは嬉しい限り。

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