【映画】最近観た映画2023年2月

2月から5月くらいまで、昨年のカンヌ出品作品やアカデミー賞絡みの作品が立て続けに上映される時期なので、うかうかしてると気付かぬ間に始まってタイミング合わずに見逃しがち。とりあえず去年のカンヌパルムドールだった二作「コンパートメントNo.6」と「逆転のトライアングル」は首を長くして待ってた作品だったので、速攻チケット確保して鑑賞。
狭い空間で起きる人間模様が徐々に変化してくるクオスマネンの「コンパートメントNo.6」。派手さや劇的な進展があるわけでは無いのだけど、滋味に響くエスプリが効いた良作。”くたばれ!”のセリフに主人公と同じく顔がニヤける。
毎度、倫理観を揺さぶってくるオストルンドの「逆転のトライアングル」はとにかくはちゃめちゃで腹を抱えて笑った笑った。概ね好評だけどガーディアン誌の批評で前作までの繊細さが皆無と評されていたが、たしかにそれも一理あるけど突き抜け方は段違いにぶっ飛んでるので、どっちを取るかだったらはちゃめちゃな方だったんじゃないかな。
他に新作ではチャヌクの「別れる決心」が中々に尾を引く傑作。情報量の多さから初見時で全てを理解できてない所も多そうなので、出来ればもう一度観たい。作り込みとケレン味が凄かった前作「お嬢さん」が、ちょっと個人的にはしっくり来なかったので、あまり期待してなかったんだけど、人間関係の機微を繊細に描きながら、かつダイナミズムのある映像もちゃんと無理なく織り交ぜていてバランスがすごい。描写の滑稽さコミカルに転化してる所も上手い。
ボウイのドキュメンタリー「ムーンエイジデイドリーム」はいち早く行われた先行上映で鑑賞。音楽メインで作られるのかと思いきや、ボウイの肉声で語られる人生観をある程度時系列に沿ってまとめ上げられてた。とにかくボウイの言葉が矢継ぎ早に出てくるので、気合い入れないと追いつかないくらい膨大。
子供の付き添いで新海誠の「すずめの戸締まり」を観たけどちょっとねぇ。震災をアニミズムに結びつける描き方が如何なものか。ポストジブリって位置付けされてるけど、宮崎駿はそんな事しないしねぇ…。なんか魔女宅だなぁって思ってたらインタビューで挙げてた。
今月はヴァルダの「冬の旅」を観るため、他の作品も鑑賞。「冬の旅」は昨今のローデンの「WANDA」や、アケルマン、ライカートの流れで観るとかなり重要な位置にある一作だと思う。ドキュメンタリーと劇映画の中間にあるような造りで、主人公の輪郭をインタビュー形式で浮かび上がらせる。男性側と女性側で社会との繋がりの視点が如実に異なっていて、男性優位社会と階級社会の実情をまざまざと突きつける。
ほとんど観ていなかったヒッチコックの作品をぼちぼち観始めているのだけど、「めまい」は圧倒された。後半のサイケデリックな描写や、知らずにファムファタルと再開し抱擁するシーンの夢見心地な幽玄さの凄まじさ。色んな監督が、ここにあるエッセンスを換骨奪胎して取り入れようとするのも良くわかる。
傑作「別離」のファルハディーの「セールスマン」も一級のミステリーサスペンス。妻が襲われる事件の内容が徐々に明らかになるにつれて、妻を救おうとする夫が復讐に没頭するも、妻との関係が遠のいていく不条理。舞台と現実が入れ違うように交差していく無情さにいたたまれない感情が湧き起こる。
未見だったホン・サンスの初期3作「女は男の未来だ」、「浜辺の女」、「アヴァンチュールはパリで」は相変わらずな内容ではあるものの、キム・ミニ以降の作品とは違う味わいがある。ミソジニーの要素がかなりあるのだけど、時間の経過と共に関係が変化していく様子は面白い。初期作品に見られるあからさまなセックス描写が挟まれる「女は男の未来だ」は、悲惨な経験をする女と、そこから逃げた男、そんな女に惹かれた男。三人がつむぎ出す先のない過去と未来に囚われた男ふたりと、落ちていきながら今を生きる女の無情さが心に突き刺さる。「浜辺の女」は出会いから倦怠期、別れを力業で数日間で描いたホン・サンスらしい作品。「アヴァンチュールはパリで」はパリを舞台に明らかに「海辺のポーリーヌ」やフェイバリットに挙げている「緑の光線」などエリック・ロメールオマージュ。ベートーヴェン使いはギャスパー・ノエの「アレックス」もあったんじゃ無いかなと。アレックスはアレキサンドロやアレキサンドラの略名で、劇中では赤ちゃんの名前で使われてたので、引用しているのでは?90分前後の長さが多いホン・サンス作品の中でも、最長の二時間越えではあるものの、だらだらと過ごすパリでのモラトリアムには丁度良い塩梅。妻と愛人の対比など、人間模様が織りなす緊張感が持続する描き方は秀逸。それにしても配給しているギャガはタイトルやポスターを見るに、ホン・サンスの本質を捉えきれていないように思える。
「イニシェリン島の精霊」のマーティン・マクドナーの「ヒットマンズ・レクイエム」はタイトルとヴィジュアルが酷いけど、イニシェリン島を紐解くには最適な作品。かなり面白いのでおすすめ。


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