見出し画像

【映画】トルチュ島の遭難者 Les Naufragés de l'île de la Tortue/ジャック・ロジエ


タイトル:トルチュ島の遭難者 Les Naufragés de l'île de la Tortue 1976年
監督:ジャック・ロジエ

何はともあれブラジル音楽ファンとしては、クラブでバンドがドリヴァル・カイミの「Saudade da Bahia」を演奏するシーンと、ナナ・ヴァスコンセロスの出演が嬉しい。特にひたすらバリンバウやパーカッションを演奏するナナの姿は、一部台詞はありながらも特に物語に絡む訳でもなく、そのまま劇中のサウンドトラック係として登場する。知らない人が見れば異様な場面なのだけど、まあ知っていても何故ここに?と不思議ではある。彼が奏でる演奏がまたグルーヴィで、観ていて体を動かしたくなるほど心地よくかっこいい。
詳しい事は分からないけれど、ナナ・ヴァスコンセロスの参加やカイミの曲の起用は恐らく、ちょい役で出ていたピエール・バルーの絡みじゃないかと。バルーのサラヴァレーベルからリリースされたネルソン・アンジェロとノヴェリとのアルバムは、映画の撮影の翌年1975年リリースなのでその辺りの絡みだった可能性は大きい。

それにしても本作の滑稽なユーモアに溢れたテイストは笑わせてくれる。冒頭の妹と偽って会いに行った女性が、登場するなり黒人だったり、セックスを迫られそのまま寝てしまったりとアデュー・フィリピーヌにあった繊細さのかけらもない表現の変わりようは面白い(その後のシーンを含めて、リューベン・オストルンドの過去作から逆転のトライアングルへの流れを連想した)。
旅行代理店に務める主人公が企画した、ロビンソン・クルーソーばりの無人島旅行の流れの荒唐無稽な無計画さが、気楽なはずのヴァカンスがさながらサバイバルへと変貌していく。気楽な客と、クルーソーよろしく命懸けのサバイバルへと慢心していく温度差が徐々に高まっていくテンションの違いには笑わせてくれる。
ユーモアの中にどこかペーソスも感じさせるあたりに、この作品の面白さがある。結局最後にひとりでロビンソン・クルーソーのようにぼろぼろになる主人公の滑稽さと、それを冷静に綴る広報アシスタントの描写の温度差も最後までズレまくっている。めちゃくちゃなドラマなのに、何故かこの駄目さが妙に愛おしくなる。
ジャック・タチ好きな人はメーヌ・オセアンよりもこっちの方がしっくりくるような気がする。当時ヒットしなかったのが不思議なくらい魅力的な映画だと思う。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?