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【映画】マリリンとアインシュタイン Insignificance/ニコラス・ローグ

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タイトル:マリリンとアインシュタインInsignificance 1985年
監督:ニコラス・ローグ

マリリン・モンローとアインシュタイン、ジョー・ディマジオ、マッカーシーと思われる人物達の密室会話劇。と思われると書いたが役名は無く名前を呼び合う事もない。四人それぞれあからさまに特定できるキーワードが仕込まれていて、それぞれの人物のイメージ通りに話が進んでいく。マリリン・モンローの有名な地下鉄の風でドレスのスカートはめくり上がり、アインシュタインの相対性理論の話や、野球、コミュニスト狩りというそのまんまな出来事が並んでいる。時代は恐らく1955年。音楽の使われ方が不思議で、1985年当時のリンドラムっぽい音が出てきたりと、何故これを使う?と思ってしまった。
とにかく変な映画で、アインシュタインの元に三人が訪れて悶着が起きるだけの話なのだけれど、合間合間に四人の記憶が差し込まれている。モンロー役の女性は幼い頃からデビューまでの記憶、アインシュタインは広島への核爆弾による惨状の記憶に苛まれていて、彼の時計は投下された8時15分を指したまま止まっている。ディマジオは子供の頃の野球の記憶で、マッカーシーは金髪(かつら)娼婦の記憶。それぞれの記憶と現在が、じわじわと交差して少しずつ各キャラクターが抱える悩みや関係性みたいなものが滲み出てくる(話が進むにつれて関係性が変化していくのは、「ジェラシー(原題Bad Timing)」にも少し近い。「地球に落ちてきた男」もそうかな)。
正直、ラスト近くまで少し退屈だなと思ったのも束の間、ラストシーンが圧巻で一気に目が覚めた。大掛かりで(最後に全てがセットだったのが分かる)、やってる事はシンプルだけど破壊的な不条理さが突き抜けていてかなりインパクトがあった。ローグの「パフォーマンス」のラスト近くのあの出来事に近いインパクトがある(あれも初見はなんじゃこりゃ!?となった)。こういうケレン味のある映像の作り方はやっぱり上手い。

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カレンダーのホックニーのコラージュ(クライテリオン盤のジャケットはこれを模している)など、小道具も程よいアクセントになっていて、モンローと結婚し生身の繋がりがあるディマジオが抱える悩めるシーンが面白い。時代のセックスシンボルであり、彼女のヌード写真が当然のように各所にあって、メディアの中にいる虚像こそが彼女だと言わんばかり。「七年目の浮気」の撮影中に喧嘩した事が別れの原因ということで、冒頭にそのシーンが挟まれている。
話が進めば進むほどそっくりさんの様にしか見えなくなってくる(実際そうなんだけど)、不思議なバランスの掴み所がない一作だった。冒頭の”フィクションである”という注意書きと、インシグニフィカンス=無意味というタイトルが示す人を食ったようなユーモア。ローグらしい映像美が織りなす佳作だと思う。

因みにニコラス・ローグファンのジム・オルークのアルバム「インシグニフィカンス」はこの映画の原題から取られている。


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