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『モダンタイムス(上下)/伊坂幸太郎』 話の筋や結末より、セリフを引用したくなる小説

「魔王」の続き(50年後)が気になり、再読した。

久々に読み直してみると「面白いけど長い」と感じ、調べてみるとKindle換算で689頁。自分が出版したKindle本で一番長いものが400頁、その原稿が15万字なので25万字はあると思う。今のところ、彼の著作のなかで最長らしい。
購入済みKindleを再読したあと、Amazonで確認すると新装版に変わっていた。

伊坂幸太郎氏の小説は読み終わってから内容を忘れていることが多い

中身は同じで外装が変わっただけだが、上の扉絵のように上下巻を横に並べると続絵になっている。カバーイラストは木原未沙紀さん

内容紹介

(上巻)
恐妻家のシステムエンジニア渡辺拓海はあるサイトの仕様変更を引き継ぐ。
プログラムの一部は暗号化されていて、前任者は失踪中。
解析を進めていた後輩や上司を次々と不幸が襲う。
彼らは皆、ある特定のキーワードを同時に検索していたのだった。

『魔王』から五十年後の世界。
検索から始まる監視の行き着く先は──。
 
(下巻)
5年前の惨事──播磨崎中学校銃乱射事件。
奇跡の英雄・永嶋丈は、いまや国会議員として権力を手中にしていた。
もうひとつの検索ワードを追う渡辺拓海は安藤潤也にたどり着くが、
事件との繋がりを見出せないまま、追い詰められていく。
大きなシステムに覆われた社会で渡辺は自身の生き方を選び取れるのか。

講談社BOOK倶楽部

人物紹介(ネタバレあり)

渡辺拓海
29歳の会社員。桜井ゆかりと浮気をしていた。失踪した五反田正臣の仕事を引き継ぎ、ある事件に巻き込まれていく。
岡本猛
渡辺佳代子が雇った渡辺拓海に「勇気はあるか?」と脅かした男。
大石倉之助
渡辺拓海が勤める会社の後輩。渡辺拓海とともに、五反田正臣の後任として株式会社ゴッシュに赴く。婦女暴行の濡れ衣を着せられる。
渡辺佳代子
渡辺拓海の妻。浮気に対して異常に攻撃的。職業がよくわからず、結婚歴を戸籍から消した。
井坂好太郎
渡辺拓海の友人作家。女好きである。(遺言がユニーク)
五反田正臣
渡辺拓海が勤める会社の先輩。株式会社ゴッシュの仕事を行っていたが、突如失踪する。再会時に失明している。
桜井ゆかり
渡辺拓海が勤める会社の事務社員。渡辺拓海の不倫相手。
永嶋丈
事件の鍵を握る国会議員。
安藤詩織
岩手の高原に住んでいる。前作『魔王』から引き続き登場。
安藤潤也
すでに死亡していたが、競馬や競輪でお金を稼いで、安藤商会を建てた。『魔王』から引き続き登場。

Wikipediaから一部省略とMOH付け加え

小説に出てくる名言

人間は大きな目的のために生きているんじゃないの。
小さな目的のために行動したら?


大事なルールほど、法律では決まってないのよ。

困った人に手を貸しなさい、とかね、そういうのは法律になってない。
 
 
考えてもどうしようもないことにエネルギーを費やすくらいなら、
やるべきことをやったほうがいい。
 
 
人は知らないものにぶつかった時、まず何をするか。
「検索をするんだよ」
 
 
どんな人間でも、毎日、先生先生と呼ばれていたら、絶対に歪むんだ。
学校の教師、医者、代議士、作家、みんなそうだ。
「先生」という言葉にまとわりつく、胡散臭い上下関係が、人を傲慢にする。
謙虚さを奪っていくんだ。
 
 
人生を楽しむには、勇気と想像力とちょっぴりのお金があればいい
[ライムライト、チャップリンの台詞]
 
 
自分たちのはめ込まれているシステムが複雑化して、さらにその効果が巨大になると、人からは全体を想像する力が見事に消える。
 
 
実家に忘れてきました。何を? 勇気を (上巻のオープニング)
  ***
「あんた、勇気はあるか?」(中略)
「勇気は彼女が」と妻の佳代子を指さした。「彼女が持っている。俺が無くしたりしないように」
(下巻のエンディング)

モダンタイムス(上下)/伊坂幸太郎

ネタバレを含む感想

50年後の時代感

2007〜8年に講談社の週刊漫画誌『モーニング』で連載された作品で、その頃から50年後の設定だが、ITに関しては現実になっているものも多々あり、すでに内容が時代遅れのものもある。

例えば、都心のオフィスビル内のワンフロアをあえてサーバ室にするケースは縮小傾向(だからデータセンターが満杯になりつつある)。


なので、ビルまるごとデータセンターであれば都心にもいくつかある。


感想

著者が文庫版のあとがきに書いたとおり作品の筋は『主人公たちがある大きな秘密に関わることになり、それを隠蔽する仕組みに翻弄される』である。
そのあとの解説を引用する。
この小説にとって重要なのは「事件の真相」ではなく、「事件の真相を隠そうとする力」「その力に翻弄されること」のほうで、事件の真相については「何でも良い」のです。
 
引用しておいてだが、あとがきを書いてしまうと、読書感想文としてそれ以上書くことはない(言いたいことは、上の名言で引用した)。
 
強いて上げるとすれば、他の伊坂幸太郎氏の作品にも出てくる『能力者』が、話が詰まったところで超能力を発揮して窮地を脱し、物語が大きく展開する。
 
彼の物語を面白くさせているのは、娯楽小説の皮を被ったSF小説(必ず人知を越えた能力を持つ人物が登場する)だからなのかも知れない。
 
あとがきの中には次のような記述もある。
「『モダンタイムス』は三年前(2008年)に発表した時から『自分にしか書けない自信作だ』という思いがありました。『どうすることもできない』仕組みを、娯楽小説の形で表現できた、という思いがあるからかも知れません。
 
前作の『魔王』と同様、彼が得意とする伏線とその回収もなく、この作品には政治家が登場して長々と語るシーンもあり、国家の仕組みを論じたりしている。

筆者は『作ったもの』と断っているが、程度の差こそあれ、現実の政治も似たようなものだと思う。

最初に書いたとおり、伊坂幸太郎氏の長編小説。

著者と微妙にペンネームが異なる小説家井坂好太郎は、主人公に疎んじられながらも(結構ウザい設定)、最後は惜しまれながら亡くなっていく。
 
彼の小説が好きで未読の方にはオススメしたい。

MOH

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