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第4話 叔父!?(とある受験生のつぶやき)

 降りた階段に続く地下通路は、非常灯の灯りだけが頼りの薄暗い空間。
 彼女は袖を掴んだまま、勝手知ったるかのように地下通路をスタスタと歩いて行く。
 廊下の行き止まりにある扉のドアノブを掴んで勢いよく開けた。
「失礼しまーす、連れてきたよー」

 その部屋の照明は壁際のダウンライトとデスクスタンドだけで、地下通路ほどではないが部屋全体が薄暗い。
 室内を見回すと、デスクの他に応接セット、大きなキャビネットが目に付き、部屋の奥には別の扉がある。

 デスクでMacBookのキーボードを叩いている男性が一瞬顔を上げ
「ああっ、ちょっと待って」
 と言い、またキーボードを叩き続ける。

「入って、入って」
 彼女は自分の家のように中に招き入れ、応接セットのソファに座るように指さす。
 言われるままに応接セットの3人掛けソファに座ると、彼女は自分のバッグを横に置き、部屋の奥にある扉を開けて中に入り、しばらくしてペットボトルのお茶を2本持って戻ってきた。
 1本を応接セットのテーブルに置き、もう1本のキャップを開け、立ったままゴクゴクと飲み始める。

「フーッ、一息つきました。みんなに見つからないようにダッシュで駅に行くの、大変だったんだから」
 なるほど、それで駅に着くまで彼女の姿を見なかったんだ。

 デスクにいた男性がMacBookを閉じて立ち上がり、応接セットの向かいのソファに座る。
 見た感じ、自分の親とさほど歳は変わらないように見えるが、黒いハイネックシャツにオリーブドラブ色のレザージャケット、黒いジーンズにレッドウィングのワークブーツと、このあたりではなかなか見ない大人の格好をしている。
 それよりもスキンヘッド(禿げているの?)に、色の入った茶色のセルフレームを掛け、あごヒゲを生やしている風貌が目立つが、全体として違和感は感じない。

 ソファに座って早々「失礼するよ」と言い、ジャケットのポケットからタバコを取り出して火をつけ、思いっきり吸い込み満足げに煙を噴き出していた。

「叔父さん、私の前ではタバコを吸わないでと言ったでしょう? 目の前で吸われると髪の毛や服に匂いがついて臭くなるんだから」

 叔父さん? 目の前の怪しい格好をした男性は彼女の叔父さんなの?

「ああ、悪い悪い。今までちょっとこんを詰めていたから。ちょっと息抜きをしないとな」

「叔父さん、またゴースト?」

「まっ、そんなところ。ところで君が、アレを作った人?」

 アレって何だ? 何も聞いてないぞ。
「えっとー、何でしょう?」

「彼女から聞いていないの? 大学に入ってからのこと」

 彼女から聞いたこと? ってアレのこと?
「『東京で一緒に暮らそう』とは聞きましたが…」

 彼女から『叔父さん』と呼ばれる男性は、吸い掛けたタバコを口から離し『ゴホッ、ゴホッ』と思いっきり咳き込んでいた。


[ to be continued ]

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MOH