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第10話 候補生!?(とある受験生のつぶやき)

 彼女の話をタバコを吸いながら聞いていた叔父さんが、ポケット灰皿を取り出してタバコを揉み消して口を開く。
「大体のところは彼女が言った通りだけど、君を候補生にする前に確認したいことがあって、ココに来てもらったわけ。質問に答えてくれるかな?」
 候補生にエントリーしていませんけど? それに確認したいことって何なの? 身辺調査でもするの?

 思わず身構えるのを感じたのか、叔父さんは微笑んだつもりでニヤッとして(スキンヘッドにサングラスだと余計に怖いんですけど)質問を始める。
「そんなに緊張しなくていいから、さっき彼女が言った投稿しているSF小説のことだけど」

 あの物語のこと? だったらいくらでも聞いてください、作者ですから。
「あの小説ですか? これからのあらすじとか?」

「違う違う、ざっと読ませてもらったけど、長く書いているね、手を替え品を替えて。主人公たちは変えないまま」
 この叔父さんという人も僕の小説を読んでくれたみたいで嬉しいけど、『手を替え品を替えて』とはどういうこと?

「まず確認するけど、アレは全部、君が書いたの?」
 どう言うこと?『小説家になろう』にゴーストライターを使って投稿する人とかいるの?

「はい、自分で考えてスマートフォンやパソコンで打ち込んで投稿しています」

「なるほど、でも話の中に出てくる主人公たちが通う会社のことや東京の街の様子が詳しく書かれているよね? 地方の高校生がよく書けるなと思ってさ」
 ハハーッ、この叔父さんって人は、僕が投稿している小説には元ネタがあると勘ぐっているのかな?

「ええ、東京や会社の様子は東京で働いているチョット年上(そう言わないと怒られる)の従姉妹いとこから聞いた話を元にしています」

「フーン、海外の話も出てくるよね?『ミッション』だっけ? 突然、上海やオアフ島へ行ってしまう話。アレも現地の街並みとか詳しいけど、行ったことがあるの?」
 やっぱり疑われてる。取材能力を舐めないで欲しいなあ、身内限定だけど。

「まだ海外に行ったことはありません。上海の街は父が出張でよく行っていたので話を聞きました。オアフ島はハワイが大好きな姉が何回も行っているので、何回も話を聞かされています」

 説明を聞いていた叔父さんは、納得してくれたのかどうか分からないまま、目を閉じて天井を向いてジッとしている。
 僕の返事が何かおかしかったのかな? それとも寝ているの?

「叔父さん、起きてる?」
 声を掛ける彼女も同じことを考えているようだ。

 叔父さんはソファに腰掛けて上を向いたまま口を半開きにしてビクともしない。
 彼女は立ち上がり、テーブルにある飲み掛けのペットボトルを持ち、叔父さんの口に注ぎ込む。
 大人にそんなことをするとか、彼女は意外と大胆。

「ブフェ! 何するんだ! お母さんに言いつけるぞ」
 叔父さんが急に元気になる。

「言ったら、私だって叔父さんのこと言っちゃうもの」
 彼女が負けずに言い返す、何か叔父さんの弱みを握っているようだ。

 叔父さんは背筋を伸ばして座り直し、僕の方を向いて話し始める。
「高校生で長く文章を書けることは確かなようだな。そこそこ読者もいるみたいだし。書く気はあるみたいだから、候補生にしてあげよう。彼女の推薦もあるしな。ただし……」


[ to be continued ]

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MOH