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『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』丸山正樹 (著) /ろう者の子であり聴者である「CODA:Children Of Deaf Adults」が主人公

「手話には『日本手話』と『日本語対応手話』の二つがある」
「先天性の失聴者の多くは誇りを持って自らを『ろう者』と称する」

『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』丸山正樹 (著) あとがき

知っている人には、当たり前のことなのかもしれない。
私はこの小説を読むまで知らなかった。
この記事を読む前に知っておいて頂きたいことを、本文から引用させて頂く。

〈コーダ、つまり「両親ともにろう者である聴こえる子」の場合、音声日本語より前に、日本手話を自然に習得します。ろう文化も同様に自分のものとします。たとえ音声日本語を話す「聴者」であっても、本質的に彼らは「ろう者」であると言えます〉   Children of Deaf Adults(ろう者の親の子ども)の略である「 Codaコーダ」という呼称は、十四、五年前に米国から入ってきた言葉だった。

『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』丸山正樹 (著)

読んでいて、いろいろ考えされられる物語。
著者のバックグラウンドが気になり、調べてみた。


読んだあと、NHKドラマになっているのを知った。
なので、まだ観ていない。

今度は私があなたたちの“言葉”をおぼえる

仕事と結婚に失敗した荒井尚人。いまの恋人にも半ば心を閉ざしているが、やがて唯一の技能を活かして手話通訳士になる。
あるろう者の法廷通訳を引き受け、過去の事件に対峙することに。現在と過去、二つの事件の謎が交錯をはじめ……。

マイノリティの静かな叫びが胸を打つ、感動の社会派ミステリー。シリーズ通して読み継がれるロングセラーです。

https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167904203

Kindle Unlimited 対象図書。

note内で検索すると、小説のドラマ化に関わられた脚本家・舞台手話通訳者である米内山 陽子さんの記事を見つけた。
米内山 陽子さんご自身も「CODA:Children Of Deaf Adults」。

このドラマの制作統括をした方の記事はこちら。

 
原作小説とドラマの相違点、これらについての深い洞察はこちらの記事で。


小説の感想(と少しのネタバレ)

小説を読後、上に引用した記事を読んでしまうと、私が今さら「内容について云々」の感想は書きづらい。
今迄ろう者の方に接する機会はなく、手話もメディアでしか見たことがないので、書かれている内容は知らないことばかり。
この小説はそんな読者に物語を通して、ろう者と彼らを取り巻く環境について上手く説明しており、小説を読みながらその世界の知見を多少なりとも得ることが出来る。
 
 
ここから先は「ミステリー小説」としての感想。

物語の始まりは、一般の人とは違う環境で育った主人公の説明。
警察官を辞めた理由が、所内での手話通訳に関わることかと思ったら、そうではなかった。警察官的には大変な理由で辞職した訳だが、物語的にはこれが必要だったのかどうか。
 
バツイチ同士の元同僚との付き合いについては、物語の後半で一つのキーとなるが、少し無理を感じた。
他にも物語が展開していく中で、やや不自然さを感じる主人公の行動もあるが、デビュー作で何より、ろう者が障がい者としてではなく物語の中で重要な役割を担うミステリー小説に仕立て上げたところが、多くの方から評価されたのだと思う。
 
「デフ・ヴォイス」はシリーズ化しており、最新の4冊めはこちら。

コロナ禍の2020年春、手話通訳士の荒井尚人の家庭も様々な影響を被っていた。刑事である妻・みゆきは感染の危険にさらされながら勤務せざるを得ず、一方の荒井は休校、休園となった二人の娘の面倒を見るため手話通訳の仕事もできない。そんな中、旧知のNPOから、ある事件の被告人の支援チームへの協力依頼が来る。女性ろう者が、口論の末に実母を包丁で刺した傷害事件。聴者である母親との間にいったい何が? “家庭でのろう者の孤独”をテーマに描く、シリーズ最新作。

「わたしのいないテーブルで デフ・ヴォイス」丸山正樹 (著)

この小説に書かれた世界を知らないのであれば、読んでみてほしい。
最後に再び「あとがき」を引用させていただく。

 もう一つ、この時期に本を出す者として、やはりあの震災について触れないわけにはいかない。震災が起きたのは、松本清張賞の最終選考に残ったという連絡を受けた数日後のことだった。浮かれていた気分はたちまち消え、この現実にどうやって向き合っていけばいいのか、と悶々とした日々を送るようになった。
 そんな頃新聞に、「障害者  忘れないで」という記事が掲載された(朝日新聞二〇一一年三月二十一日)。さほど大きな扱いではなかったが、視覚や聴覚に障害を持つ人たちは、震災時やその後の混乱の中、障害を持たない人たち以上の困難があることを伝える内容だった。その後、やはり震災がらみで、大勢が共同生活をする避難所では、自閉症や発達障害の人に対しては特別のケアをしてほしい、という内容の記事も載った。
 ああ、この記事を書いた記者たちはきちんと仕事をしている、と思った。「何もできない」とただ悩んでいるだけで、なすべきことから逃げている自分を恥じた。
 障害を持つ人たちだけに限らず、世の中には、何か訴えたいことがあっても、大きな声を上げられない人たちが少なからずいる。そういう人々の声を、小説という形でより多くの人たちに届けられたら、と思う。

二〇一一年六月
            丸山正樹

『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』丸山正樹 (著) あとがき

no+e というメディアを介して、出来ることは何だろう?


MOH

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