第１話 図書館！？ （とある受験生のつぶやき）
暦は11月半ばを過ぎ、大学入学共通テストまであと２ヶ月を切った頃。
彼が通う進学校、3年生のクラスもそれまでの騒ついた雰囲気から、最後の追い込みに向けてピリピリとした空気が漂っていた。
クラス担任も心得たもので、朝夕のホームルームでは必要な連絡事項のみを生徒たちに伝え、早々に終わらせていた。
彼は終了の礼と共に教室を出て下駄箱へ向かう。
まっすぐに帰宅するか、市立図書館で勉強するかを考えながら、下駄箱を開けると靴の上に一通の封筒が載せられている。
（誰？）
周りに見ている生徒がいないことを確認して封筒を取り、中を急いで開けてみると、同じクラスの女子生徒の名前。
彼女は地方都市の進学校の生徒にしては、都会的な雰囲気があり、その外見（カワイイ）から男子生徒の間で話題になる子であった。
『今日、市立図書館で会えませんか？ 自習室の奥でお待ちしています』
クラスのグループラインがあったと思うけど、なぜ僕に手紙？ 市立図書館に行こうと思っていたから、まあ良いけど。
校門を出て市立図書館へ早足に向かって行った。
＊＊＊
図書館の自習室は、たまたまなのか空いており、奥の席についている彼女が手に持つシャープペンシルを小さく振って合図する。
（ほんとに居るけど… 何の用？）
図書館へ向かう途中『この手紙は誰かの悪戯？ でもうちの学校でこんな幼稚なことをやる奴、居たっけ？』と思いながら歩いていた。
手紙の主が実態として目の前にいたので無視する訳にもいかず、普段の表情と足取りを意識して自習室の奥まで歩いて行く。
彼女の隣まで来ると、彼女は嬉しい表情を隠さずにシャープペンシルで隣の席を指し示す。
ココに座れと？ 自習室は私語厳禁だから喋らないの？
彼女の隣に座り、カバンからやりかけの問題集を取り出そうとすると、彼女の細い腕が僕の腕を握り、動きを止める（！？）
思いも寄らぬ彼女の行動に、動きが固まったまま彼女の顔をじっと見てみた。
今までクラスメイトとしてしか見ていなかったが、改めて近くで見ると目鼻立ちが整い顔の形もシャープで、カワイイと言うより美人さん。
ドギマギして固まったままの僕の前で、彼女は自分のノートを広げ、大きな字を書き始めた。
『〇〇大学受験するよね？ 私も受験するの』
何で僕の志望校を知ってるの？ 誰かに話したっけ？
そう思いながら、とりあえず頷くと、彼女はノートに続きを書く。
『良かった。ホントよね？』
首肯すると、彼女がまたノートに書き始める。
『合格したら、東京で一緒に暮らそうよ！』
「エェー！」
思わず立ち上がり、自習室に響き渡る大声を上げると、図書館員から騒ぐなら出て行くように注意され、ペコペコ謝りながら席に座った。
どうした？ 何があった？
戸惑って目が泳ぐが、彼女に気にする気配はなく、またノートに何かを書き始めた。
[ to be continued ]
ＭＯＨ