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【読書感想文】戦争は女の顔をしていない (岩波現代文庫) Kindle版

2015年、ジャーナリストとして初めてノーベル文学賞を受賞した、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチの最初の著書。
1948年ウクライナ生まれ。国立ベラルーシ大学卒業後、ジャーナリストの道を歩む。ベラルーシ人の父とウクライナ人の母をもつ。

内容

ソ連では第二次世界大戦で100万人をこえる女性が従軍し,看護婦や軍医としてのみならず兵士として武器を手にして戦った.しかし戦後は世間から白い目で見られ,みずからの戦争体験をひた隠しにしなければならなかった――.500人以上の従軍女性から聞き取りをおこない戦争の真実を明らかにした,ノーベル文学賞作家の主著(解説=澤地久枝)
■内容紹介
 アレクシエーヴィチはこれまで,ソ連の一般市民に対する綿密なインタビューを重ねることによって,大文字の歴史からはこぼれ落ちてしまう市民の生の声をすくいあげ,世界中に衝撃を与えてきました.とりわけチェルノブイリの事故処理を担った一般人など,ともすれば国家権力に圧殺されてしまいがちな弱者の声に耳を傾けるその姿勢は,社会性および人道性の観点から高く評価され,また,市井のさまざまな証言を集め,多声的なドキュメンタリー文学作品に仕上げるその創作手法は,芸術性の点でもきわめて高い到達を示しているとして,これまで数々の文学賞が授与されてきました.それが認められて2015年ノーベル文学賞を受賞しました.
 その創作スタイルがドキュメンタリーの手法であるため,文学賞として認められるか懸念されましたが,スウェーデン・アカデミーは「私たちの時代の苦悩と勇気への記念の碑」と称え,「文学の新しいジャンルを案出した」と評しました.
 本作はアレクシエーヴィチが1984年に発表した最初の作品です.雑誌記者だった30歳代の彼女が1978年から取材を開始して,500人を超える女性から聞き取りをしました.完成後2年間は出版を許されず,ペレストロイカ後に出されました.ベラルーシの独裁者ルカシェンコ大統領は彼女を「外国で著書を出版し祖国を中傷して金をもらっている」と非難し,長い間ベラルーシでは出版禁止にされてきました.
 ソ連では第二次世界大戦で100万人をこえる女性が従軍し,看護婦や軍医としてのみならず兵士として武器を手にして戦ったのですが,しかし戦後は世間から白い目で見られ,みずからの戦争体験をひた隠しにしなければなりませんでした.英雄としてではなく生身の人間としての従軍女性(パルチザンや抵抗運動に参加した女性をふくむ)に本書が初めて光をあてたのです.
 ベラルーシのドキュメンタリー作家アレーシ・アダモーヴィチいわく,
「戦争は女の顔をしていない.しかし,この戦争で我々の母親たちの顔ほど厳しく,すさまじく,また美しい顔として記憶されたものはなかった」

岩波書店

目次

人間は戦争よりずっと大きい
思い出したくない
お嬢ちゃんたち,まだねんねじゃないか
恐怖の臭いと鞄いっぱいのチョコレート菓子
しきたりと生活
母のところに戻ったのは私一人だけ……
わが家には二つの戦争が同居してるの
受話器は弾丸を発しない
私たちの褒美は小さなメダルだった
お人形とライフル
死について,そして死を前にしたときの驚きについて
馬や小鳥たちの思い出
あれは私じゃないわ
あの目を今でも憶えています……
私たちは銃を撃ってたんじゃない
特別な石けん「K」と営倉について
焼き付いた軸受けメタルとロシア式の汚い言葉のこと
兵隊であることが求められたけれど,かわいい女の子でもいたかった
甲高い乙女の「ソプラノ」と水兵の迷信
工兵小隊長ってものは二ヶ月しか生きていられないんですよ,お嬢さん方!
いまいましい女(あま)と五月のバラの花
空を前にした時の不思議な静けさと失われた指輪のこと
人間の孤独と弾丸
家畜のエサにしかならないこまっかいクズジャガイモまでだしてくれた
お母ちゃんお父ちゃんのこと
ちっぽけな人生と大きな理念について
子供の入浴とお父さんのようなお母さんについて
赤ずきんちゃんのこと,戦地で猫が見つかる喜びのこと
ひそひそ声と叫び声
その人は心臓のあたりに手をあてて……
間違いだらけの作文とコメディー映画のこと
ふと,生きていたいと熱烈に思った

訳者あとがき
解説 著者と訳者のこと        澤地久枝

岩波書店

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感想

この様なスタイル、内容の本は初めて。
読み始めてしばらく、どのように読み進めれば良いのか戸惑った。

気持ちが下がっている時に読むと、戦場シーンで書かれていることに心が押し潰されそうになる。

インタビューを受けた元女性兵士の多くが、自らが祖国のために志願し戦ったことを当然のように思っているところは苦々しい。

「だからプーチン政権が長く続いているのか」と思えなくもない。

この本と同じことが、今も同じ場所で繰り返されており、人間の愚かさを痛感する。


MOH


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