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あこがれ

物心ついた頃からのラジオっ子だ。中学2年には週末貰える500円のお小遣いから、ハガキを買って深夜ラジオのネタコーナーに送っていた。親が寝静まった時間にそっと窓を開け、東の空にアンテナを向けては雑音混じりのbitter sweet sambaにテンションを上げてみたり、TBSをネットする香川(西日本放送)の脆弱電波にダイヤルを小刻みに合わせながらコサキンに大笑いした。ヤンタンステッカーなど鞄に貼って登校しようもんならヒーローだった。信じられないかも知らないが、本当にそんな時代があった。そんな厨二時代を拗らせたまま、47歳の今もラジオが大好きだ。そもそもわたしの名前"もひかん"もラジオネーム(ペンネーム)だ。

そんな深夜ラジオで、その後の音楽人生をひっくり返されるような出来事があった。

ネタコーナー目当てで聴いていた笑福亭鶴瓶(ヤンタン土曜日)のゲストに招かれた女性のギターと歌声に、高校3年のわたしは呼吸が止まった。そのまま寝れずに駅前のレコード屋で朝を迎えた。

引越しや結婚で沢山のCDを処分したが、あの朝、みゆき通りのミヤコレコードで買った2枚だけはずっと大切にしている。

当時は空前のバンドブームで、袖びろっびろのロンTを着て首からエレキを下げているだけでモテた。そんな最中にわたしは、親戚の姉ちゃんから譲ってもらったヤマハFG180で長渕剛から吉田拓郎へ傾倒。フォークル、加川良、URCレーベル、中津川フォークジャンボリー音源などを貪り、親の世代も首を傾げるアングラフォークを掘り下げ、最終的に路上で"自衛隊に入ろう"を弾き語っていた。同級生と音楽の話題が成立しないのだ。そりゃモテるわけがない。そのわたしの息を止めてトドメを刺したのが、花岡幸代(敬称略)である。

おそろしいほど歌が上手い。

昨日まで『アメリカのバカ野郎!』と怒鳴っていた田舎の少年が、彼女がしたためるフランス文学のような淡色の恋愛旋律に耳を奪われてしまう。
twitterにも度々書いているが、人生で唯一のファンクラブというものにも入った。"銀色のバイク"という曲の影響で、銀色のおんぼろバイクも買った。本当におんぼろバイク(格安のビラーゴ400)だったので、買って3週間目の千早赤阪村でリアタイヤが取れた。
初めて女性に花束を送ったのも花岡幸代だ。中津ミノヤホール19時開演のライブに、何故か青いスーツで両手に余るほどの花束を抱えていった。それも15時に。もう完全にイタいファンだった。開演までの4時間をどうするか思案の最中、たまたまリハーサルを終えたナマ花岡幸代と対面する。2度目の呼吸停止。肝心のその後のライブをはっきり覚えていない。ただスポットライトに照らされたオベーションのスーパーアダマスがとても鮮やかで、その舞台袖のアップライトピアノには花束が飾られていたように記憶している。

その後アニメの主題歌などメディアでも認知され始めた花岡幸代だったが、いつの間にか姿を消した。ファンクラブの会報も継続のお誘いがなくなる。社会に放り出されいつしかそんな事も忘れがちになった。熱を上げる音楽(ブルーグラス)にも出会い、深夜ラジオが親友だった少年がいつの間にか世帯を持ってしまった。ただ数年に1度ほど棚のジャケットが視界に入ると、埃のかぶったプレーヤーに差しては検索するような生活が25年ほど続いた。

久しぶりに"リフレイン"が聴きたくなり(プレーヤーを起動させるのが面倒で)youtubeに誰かが残したいつもの数曲を聴こうとしたところ、ご本人が歌う動画が幾つか更新され息が止まる。どうやら少し前からライブ活動を再開されたことを知り、また息が止まる。SNSも積極的に運営され、Instagramから工房の作品を誉めて頂いた。そしてミノヤホールでスポットライトを浴びていた、あのスーパーアダマスのストラップを作ることになった。この2ヶ月間なだれが押し寄せるように、呼吸を止められっぱなしだった。多分19歳のわたしが知ったら死ぬ。

ご本人からはほぼお任せだったのですが、プロに、それもアオハルを構成する人に下手なものはお渡し出来ません。本格的に工房を稼働させてからのギターストラップは、ブルーグラスというかドレッドノートに使用される前提で考えてきたので1からデザインを起こしました。とても丁寧に。

・スーパーアダマスで使用
・茶系ワイン
・女性らしく、演奏の邪魔をしないデザイン
・軽く柔らかい即戦力

などを踏まえて図面を起こします。

トニーライス(アメリカンヴィンテージ)のデザインを柔らかく、飾り捻を細くアウトラインに添わせながら、アクセントに真鍮の鍵を型押しすることにしました。わたしの大好きな曲"あこがれ"の一節にある"真鍮のドアの鍵"からイメージしました。


※花岡幸代の小部屋vol.11引用あこがれは8,29〜
画像にリンクを埋めてます。是非聴いてください。

これらをほぼ10代で書き終えているんですからおそろしい人です。ちなみに抱えておられるのが、花岡幸代の代名詞ともいえるスーパーアダマス1587-8。うちのお客さんはみんなゲー出るほど高価なギターなので本当に緊張します。

捻引きは専用の工具を使います。マンザニータ1号はお休みです。

図面のネック部に訂正の指示を頂戴したので若干の手直し。この辺りは流石にプロだなあと感心させられました。


頭の中ではイメージ出来ていたものの、鍵の型押しなんて初めての試みです。

なんとかなるもんですね。

手染めのセオリーは薄い色からなんですが、わたしの場合はこれ以上濃くしたくないグラデーションの端から染めていきます。染め重ねていくと、ついついイメージする色より濃くなってしまう場合があります。

赤みが強く残っていますが、乾燥で落ち着くはずなので1週間放置です。


1週間後、予想通り赤みは抜けました。スーパーアダマスとの相性も良さげです。



あとはいつも通りの行程。色止め、コバ磨き、オイルで完成です。2mm厚に変えるだけでめちゃくちゃ軽く、柔らかくてしなやかです。トニーライススタイルストラップもレプリカにこだわり過ぎていましたが、この厚さでもよいかも知れません。かなりオススメです。そして最後の乾燥を済ませ3週間後に完成です。

29年間のあこがれを

ぶつけてやったぜ!

型押しした真鍮の鍵は革紐に通し、タンの荷札を外せばネックレスやキーホルダーとして使えるようにしました。手前味噌で恐縮ですが、とてもかわいい出来です。誰も47歳トラック運転手が作ったとは思わないでしょう。

製作にあたり何度かご本人とやり取りをさせて頂き、夢のような3週間でした。いやこのストラップをこれから使って頂けるのなら、もうしばらく夢心地は続くはず。

荷札には"your songs made our youth"とだけ添えさせて頂きました。29年分のラブレターみたいなもんです。

デザインも好評なので、しばらくweb storeのラインナップに加えてみようと思います。よければ覗きにいらして下さい。

https://mohikan1974.theshop.jp/

だってアソートで買った真鍮の鍵が

あと124個も余ってるんですよ(泣)


【7/3 追筆】
花岡幸代さんのyoutubeチャンネル"花岡幸代の小部屋"にて、とても丁寧に時間を割いてご紹介いただきました。その後わざわざ立奏。。。もうただただ恐縮です。"空"とても良い曲なので、是非ご覧ください。

✳︎ special thanks ✳︎

花岡幸代


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花岡幸代さん、スタジオAMBさん、ファンのみなさん、本当にありがとうございました。これからもよろしくお願いします。

拝 もひかん

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