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日本人はどのように働けば幸せになれるのか/『人事の組み立て』を読んで

「欧州の人たちは、夏休みが2か月もあるらしい!」
「日本人は働きすぎ。海外の人は、定時で仕事を切り上げて、夕ご飯は家族で食べることがほとんど。」

こういった話を聞くと、羨ましいなぁと思うと同時に、
「なぜ日本でも同じことができないのか??」とずっと疑問に思っていた。

私の家では父は夜遅くまで働き、帰ってくるのは子供が寝た後ということも多かった。そしてその分給料をたくさんもらっているかというとそうでもなく、バブルがはじけて以降は景気がよくなさそうだった。

母からは仕事はつらく厳しいものと教えられ、「安定が一番」ということを言い聞かせられてきた。

だから学生時代にヨーロッパに留学した時、友人の家では当然のように家族揃って夕ご飯を食べていて、クリスマス休暇や夏休みも1~2か月ほど別荘でゆっくりしていると聞き、衝撃を受けた。

社会人になってからはその衝撃は記憶の片隅に追いやられて、自分自身も残業当たり前の毎日を送っていたのだけれど、
この本を読んで、「ああ、あれはそういうことだったのか。」とやっと腑に落ちた。

この本では、欧米・欧州と日本では雇用条件や給与の決め方、昇進の有無など、労働者を取り巻く仕組みが根本的に違うということが丁寧に説明されている。(※以下、ネタバレを含みます。)

なぜ、欧州の友人の親は日々の労働時間が短く、長期休暇中に別荘にも行けてしまうほど余裕があったのだろうか。

欧米・欧州型の雇用と日本型の雇用の違い

欧米・欧州型の雇用と日本型の雇用の間には以下のような違いがある。

【欧米・欧州型雇用】
・欧米・欧州では、「職務給」つまり、ポストごとに給与が決まっており、ポストの数は一定。
特に欧州では採用される段階からエリート・ノンエリートにはっきりと分かれる。ノンエリートは労働時間が短い代わりに、昇進はなく、一生同じ仕事をやり続ける。ただし、ある程度の給与は保証されており、簡単にはクビにはならないので、プライベートを充実させることができる。
なお、エリートはそれなりに長時間労働をしている(ただし日本人のほうが労働時間は長い)。
・労働組合が企業の枠を超えて職種ごとに設置されており、労働者の処遇において力を持っている。

【日本型】
・日本では「職能給」といって人の能力に給与が紐づく仕組みを採用しており、同じポスト(職階)の中でも経験年数や能力によって、給与が異なる人が多くいる。そしてポストの数は一定ではなく、その時に昇進が必要な人数等により、増減する。
・一方日本では、入り口からエリート・ノンエリートにはっきりと分かれることはなく、頑張れば誰もが昇進する可能性を持っている(総合職など)。だから誰もが「管理職になれるかもしれない」という望みを持って、長時間働いてしまう
・労働組合は企業ごとに設置されており、あまり影響力を持たない。

今思えば、欧州の友人の親はノンエリートだったのかも、と腑に落ちた。複雑な仕事はエリートが担当し、ノンエリートは余暇の時間で家事や育児に積極的に関わる。こういった役割分担がなされているからこそ、欧州は国を発展させつつ、出生率を大幅に下げずにやってこれたのではないかと思う。
こうして、自分が何に重きを置くかによって働き方を選択できることは、とても素晴らしいことだと思う。

では、日本型雇用は悪かと言われれば、そんなことはない。欧米・欧州型では給料が一定でずっと同じ仕事をし続けるのでモチベーションが上がらないが、日本型雇用では、欧米・欧州型とは違い入口時点で昇進の有無が決まらないので、多くの人が頑張れば管理職になるチャンスを持っている。また、総合職などは企業内で配置転換があることで、様々な能力を身に着けるチャンスがある(異動があるのは大変なことも多いが)。

その他、欧米・欧州型雇用と日本型雇用のメリット・デメリットは、例えば以下のようなものがある。

【欧米型】
・ポスト型雇用は、採用~退職時までずっと同じ仕事を務めるものなので、企業側に人事権がない。だから、急な退職時は外部からそのポストに見合う人を採用せねばならない。
・ポスト数が一定なので、人件費管理がしやすい。
・同じポストであれば経験年数が違っても同じ給与で雇われることになるので、経験の浅い若者の就職が困難。

【日本型雇用】
・企業が労働者に異動を命じることができるので、役職者が退職するときも、下位職階者の昇任・玉突きで人を補充していき、最後は新卒などの下位職階を一人多く雇うことで、すぐ穴埋めができる。
・ポストの数が増減するため、人件費の見通しが立てにくい。
・年齢により給料が上がる仕組みのため、若者は安い給料で雇うことができるが、ミドルの給与は高くなる。よってミドルの就職が困難。

以上のことを考えると、欧米・欧州型雇用と日本型雇用のどちらがいい、というのは一概には言えないのではないか。ただだた欧米・欧州型雇用に憧れていたあの頃の自分に教えてあげたい。

日本人はどのように働けば幸せになれるのか

ここまでの情報で、日本人も欧米・欧州型雇用をただただ真似すればいいのではない、ということは分かった。では、私たち日本人はどのように働けば、幸せになれるのだろう―。

この本の筆者は、日本人は40歳くらいまでは皆が昇進を念頭に働き、40歳の時点で昇進を望まない人については、そこから給料固定で定年まで働くことができる仕組みがよいのではないかと提唱している。
確かに、多くの人に一定チャンスを与えつつも、階段を上り続けず降りる選択肢も用意することで、より人生を自分らしく生きられる気がする。

私自身、どのような働き方をしたいのかはまだ模索中だ。
だけど、自分がやってみたいと思ったことには安心して挑戦できる社会であってほしいと思う。働くことで充実感を得て、プライベートでもしっかりと生活していけるくらい対価を得ることができる。そんなことが当たり前にできる社会になってほしいし、そのために少しでも自分ができることを見つけてやっていきたい。


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