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【実話】深夜の睡眠妨害者【怪談】

この時期に怖い話を語る雰囲気になると必ずする話。

高校生の時、制服が完全に夏服に切り替わった頃だった気がします。家族は一階に住む祖母を除き、全員二階を寝室にしていました。
寝室に上がる順番はいつも妹→自分→母→父で、その日も例に漏れず、就寝態勢の家族に構わずスリッパでバスバス音を立てながら階段を上がる父の足音を聞きながら「もうそんな時間か…」と布団の中で眠れないことに焦っていました。

その日はたまたま寝つきが悪く、12時を回ってから寝室に向かう父の足音や、いつも深夜にパートから帰る祖母が一階でもそもそする音を聞いていました。自室で爪を切っていると2つ隣の部屋の母が何の音かと確認しに来るくらい壁が薄い家です。

父が寝室に入ってしばらく後、エアコンのタイマーも切れ、ようやく眠れそうだと思った時、もう一つ足音が上がってきました。

体重をあまり感じさせない軽い足音に、その時は一瞬「妹かな」と思いました。
母は末端冷え性で夏でも一日中靴下とスリッパ、先に書いた通り父は遠慮なきバスバスリッパで、就寝時に裸足なのは自分と妹だけだったからです。

しかしその可能性は一瞬で消えました。

妹は夜に1人で2階に上がるのを極端に怖がる超ビビり。就寝時は毎回全ての電気をつけながら早足で階段を上がり、瞬足で部屋に入っていきます。
そんな森のリスみたいな奴が悠長な足取りで、父が眠り祖母が帰宅するような1時台に1人で行動するはずがないのです。

じゃあ祖母かとも考えましたが、爪を切る音で母が起き出す我が家、階段に近い一階の浴室で祖母がシャワーを浴びる音がはっきり聞こえてきます。

じゃあこれは誰だよ。

その考えに行き着く頃には、足音の異常性はますます増していました。

階段を上がりきったそいつは、両親、妹、自分の部屋のドアのどれを開けることもなく洗面台しかない狭い廊下をぐるぐると徘徊し始めたのです。
その3択で自分の部屋のドア開けられても困るけどな。

こういう時人間は、無い選択肢を無意識に除外するようで、可能性を捨て切れず犯人は妹の気でいた自分は、注意をするついでにビビらせようとベッドからそっと這い出てドアノブに手をかけました。

するとぴたりと止まる足音。
しばらくドアを開けずに気配を窺っていましたが、その後足音も聞こえなくなったので、反抗期の妹と極力会話を避けたかった当時の自分は注意することもなくそのまま布団に戻りました。

その数分後、徘徊を再開する足音。
このドア前で様子を伺い布団に戻るを2〜3往復して、流石にもう無視して寝たろうと決めて足音を放置することにしました。
すると最初に控えめに徘徊している足音は、時間が経つにつれてどんどん主張が激しくなり、最後の方にはわざと大きく足を踏み鳴らしているかのような音に変わっていきました。ガニ股で全力で踏み鳴らさないと無理。

完全に睡魔が吹き飛んだ自分は、今度こそ許さんマジ許さんと布団から飛び出しドアノブに手をかけガチャリと回しました。
やはりその瞬間消える足音。そこで自分は気がつきました。

今までドアノブに手をかけはすれど、回すところまでいっていませんでした。
ただ足音の主にバレないようにドアの前に立ち、気配を伺っていただけ。音を立てている側からしたら、ドアの向こうに人が立っているかも分かるはずがないのです。それなのになぜ今まで足音が止んだのか。
その考えに行き着いた自分は、ドアを開けることができず、しばらくその場で固まってしまいました。半端に回したドアノブをそれ以上さらに回すことも戻すこともできませんでした。

何分そうしていたかは覚えていませんが、今度こそ何が聞こえても無視しよう。そう決意した自分は、ゆっくりとドアノブを戻し、エアコンを付け直そうか考えながら部屋の隅に置かれたベッドに転がって、壁に向かって寝返りを打ちました。
これで終わったらたまにあるかもわからん不思議な話で済んだのですが、

「……、…」

誰かがうなじの辺でぼそぼそ喋る感覚がありました。
なんと言っていたのかは分かりません。女の人であることは確実でした。
音だけでなく、至近距離で喋ったがために吐息が当たる感覚まではっきりあったのを今でも覚えています。自分は完全に動けなくなりました。
動こうと思えば動けたのかもしれないですが、得体の知れないものに背後を取られると無闇に動いてはいけない気になって、目の前にあるエアコンのボタンすら押せなくなっていたのです。

寝返りを打ち直すこともできないまま、寝たふりを決め込むことにした自分は、その後本当に寝落ちに成功し、追加でおかしなことも起きないまま朝を迎えました。無闇に動かない方が眠れるのかもしれない。
その後気絶して気づいたら朝ってこういう描写面倒で端折ったんじゃない? どう?(知らんて)

その後朝食の席や学校から帰宅後に家族に確認しましたが、その夜は誰も不審な足音を聞いていないとのことでした。ドア閉めて爪切ってても部屋一つ飛ばしてオカンが飛んでくる家なのに。

夢と言われればそうかもしれないですが、体を起こす動作を繰り返したり、ベッドに転がって数秒後にかまされたりなど、意識が鮮明な状態の気でいたため素直にそうかと頷けない、人生で一番最初に体験した不可解な出来事です。

首の後ろで喋る人のせいで創作性が増してしまったことがめちゃくちゃ不服なので、情報量を増やしてきた本人は自首してください。許さん。
今はこの家はニ階はほとんど使われずに一階に祖母が一人で住んでいます。
関連性のありそうな話がもう一つあるので、それはまた次回。

読んでいただきありがとうございました。

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