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シンガポールの政治体制と政府系ファンド


シンガポールの政治体制と政府系ファンドについて

政府系ファンド

 政府系ファンド、いわゆるソブリン・ウェルス・ファンドとは国が持つ金融資産を積極運用するファンドのことです。ソブリン・ウェルス・ファンドというと、産油国である中東のイメージが強いかもしれません。

シンガポールの政府系ファンド

 産油国ではありませんが、シンガポールという国にも、テマセクホールディングスという大きな政府系ファンドが存在し、社会に大きな影響を与えています。
 今回は、シンガポールのテマセクホールディングスについて整理し、日本でも同様のことが可能なのかという観点で解説します。

シンガポールの政治体制

 シンガポールという国は、権威主義的な統治が行われている国です。表面上は三権分立による共和制国家となっていますが、一党絶対優位体制が敷かれています。そして、初代首相のリー・クワンユー氏が長く影響力を持ち、現在の首相は息子のリー・シェンロン氏となっています。「明るい北朝鮮」と言われる理由になっています。

テマセクホールディングスの概要

 テマセクホールディングスという会社は、2023年時点で3,820億ドルを運用するシンガポールの政府系ファンドです。テマセクホールディングスは、1975年に設立され、シンガポール国内の発展のために、国内のインフラ事業や重要な事業を行う会社に投資を行ってきました。
 例えば、シンガポールの電力会社シンガポールパワーの株式の100%を持っているほか、シンガポールの港湾運営会社PSAインターナショナルの株式の100%、シンガポール航空の株式の56%、シンガポールの公共交通機関SMRTの54%の株式など、公共サービスを提供する会社の株式を大量に保有しています。
 しかし、2000年代に入ってからはポートフォリオを国際化し、現在はシンガポール国内への投資は全体の3割程度になっています。リターンの向上のために世界中に投資を行っています。
 テマセクホールディングスの株式はシンガポールの財務省が保有しています。つまり、財務省が国内のいろんな事業を保有、管理し、このテマセクホールディングスというファンドで海外に投資をすることで得られる利益が配当として財務省に入ります。つまり、財務省、つまり国が潤うという仕組みになっています。

政府系ファンドの運用と日本の可能性

 本格的な議論になっているわけではないですが、日本でも政府系ファンドを作ったらどうかということを言われる方がいます。こうした主張というのは、要はテマセクホールディングスのように政府がファンドを持って投資をすれば、そのファンドが得たリターンで国の財政が潤うので、税金を減らせるという話です。
 実際、シンガポールという国は、こうした効果もあって比較的低い税率を実現しています。シンガポールの法人税は17%で、世界でも税率が低い国の中の一つです。所得税の最高税率は24%となっています。こういうことが日本でもできないかという意見があるわけです。

日本で政府系ファンドを運用できるか

私の考え(政治的な理由)

 こうしたテマセクホールディングスのようなことが日本でもできるかという私の意見を申し上げます。日本では難しいのではないかと思っています。
 まず、国が運営するファンドというものが日本でうまく機能するかという問題です。すごく簡単に考えて、シンガポールでは財務省がテマセクホールディングスを通していろんな企業をコントロールしているわけですが、日本において財務省がいろんな企業に影響力を与えるような状況になったら、どうでしょうか。嫌だと思う人が多いのではないでしょうか。当然、財務省がお金を握るわけで、財務省に都合がいいところにお金が流れていったりするわけです。
 シンガポールでこういうことが実現できるのは、政治体制が権威主義的、つまり一党独裁体制になっているからです。中東の石油産出国も同様で、王様が統治している国だからできるということでもあります。この政府系ファンドというもの、多くが権威主義国家が運用しているものだということを理解しておくと良いでしょう。
 日本のような民主主義の国でファンドを運用するということになると、不透明なお金の流れがないようにしなければなりません。そのため、今私たちの年金を運用しているGPIFのように、ある程度のルールに則ってやるしかないと思います。そうなると、テマセクホールディングスの運用とは違うものになると思います。

私の考え(運用収益面)

 政府系ファンドについて考える上で、もう一つ重要な論点は、国家がファンドの運用収益で歳入を賄うことができるのかという点です。これは、資産運用でリターンが入ってくれば、税金を安くすることができるという、夢のような話です。
 しかし、実際にできるのでしょうか。シンガポールやUAEのような小さな国だったらできるかもしれませんが、日本のように大きな経済規模の国が歳入の一部を運用収益で賄うというのは現実的ではないと思っています。極端な話ですが、明日から世界中の人たちが運用収益で生活していこうとしても、できないわけです。誰かが一生懸命働いたり、新しいアイデアで良い商品やサービスを生み出すことによって、経済が成長していくわけです。
 みんなが投資しかやらなくなったら、投資はうまくいかなくなってしまいます。みんながみんなテマセクホールディングスのようなことをやりだしたら、経済は成長していくことはできません。日本のような経済規模の大きな国が資産運用のリターンで歳入を賄っていくのは現実的ではないと私は思っています。

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