テスラのロボタクシー発表と投資家の反応の考察
10月10日に、テスラがロボタクシーの車両などを発表するイベントを行いました。この発表の後、株価が大きく下落しました。この結果から分かるとおり、投資家は今回のテスラの発表をかなり厳しめに受け止めたと言えます。
私はテスラの株を専門的に見ているアナリストではありませんし、すでにテスラをよく見ている人たちが色々な記事を出していると思います。私はもう少し長期的な視点で、注目している点について説明をしたいと思います。
イーロン・マスク氏のビジョン
イーロン・マスク氏が発表した内容によりますと、2人乗りで運転席のない完全自動運転の車を2026年の販売開始を目標としており、価格は3万ドル以下になるということです。他に、20人乗りのロボバンという自動運転車も発表されています。
イーロン・マスク氏は、車に投資をし、必要な時に車を使い、あとはタクシーとしてお金を稼がせる、そうしたことも可能だと話しています。社会全体で効率的に車を使うことができるようになれば、車の数が減り、駐車場も不要になると主張しています。
投資家の反応
このように、かなり画期的なことを色々と発表しましたが、投資家はこれを厳しめに受け止めた格好です。
もともとこのロボタクシーの話は2010年代後半頃から言われてきたことです。2019年にイーロン・マスク氏は「2020年末までに完全自動運転のロボタクシーを100万台以上路上を走らせる」と言っていましたが、結局2024年10月現在、まだテスラの完全自動運転のロボタクシーはアメリカでは1台も路上を走っていません。
ロボタクシー実現を阻む課題
このロボタクシーの実現には、様々な課題があります。まずは技術的な問題です。
これまで、カリフォルニア州などで一部導入された自動運転車両で大事故が多数起こってきました。そのため、アメリカでは国民も規制当局も技術に対して厳しい目で見ています。完全な自動運転はまだ難しく、遠隔操作などが必要になるのではないかといった議論もあります。
投資家の失望
こうした理由から、当局が認める自動運転の車両の台数は非常に少数に限定されています。こうした状況にある中で、今後数百台を普及させるには多くの法案を通す必要があると見られています。しかし、このあたりの実現可能性が今回の発表では全く明確化されなかったため、投資家の失望を誘ったと見られています。
投資家の懸念材料
カリフォルニア州などでは、アルファベット傘下のWaymo、GM傘下のCruiseなどがロボタクシーのサービスをすでに展開していますが、テスラは今のところ同州の当局に許可の申請もしていないということです。規制当局がテスラに対して独自のハードルを示す可能性もあるといった見方もあり、まだ不透明なところが非常に多くある点が投資家の懸念材料になっています。
技術的な進歩と個人的な感想
個人的な感想を申し上げると、技術的には徐々に上がってきているものの、複雑な地形や天候によっては正しく運転できないこともあると言われているため、ロボタクシーが人間のタクシードライバーから仕事を奪うのには、まだ時間がかかりそうな状況だと考えています。おそらく2026年にドカンと普及することはほぼないでしょう。
専用レーンを設けたりし、一定の条件をつければ、ロボタクシーを導入することもできると思いますが、専用レーンを設定するのもまた大変です。それはそれで多くの法案を通す必要があるでしょう。アメリカでロボタクシーが走り回る社会は、もう少し先になるだろうという印象です。
投資家と株式市場の視点
投資家というのは常に目先を追いかけていて、先延ばしを嫌うものです。2026年という目標を立てて、その実現が怪しいとなれば、一旦叩き売られる。これが株式市場というものです。
長期的な視点
私は「自動運転はまだまだできない」というだけではなく、時間はかかるかもしれませんが、徐々に近づきいずれ可能になるという意味で、これが実現したら世の中がどう変わるのかは考えておく必要があると思っています。
ロボタクシーがもたらす社会変化
今回、イーロン・マスク氏はロボタクシーを3万ドルで売り出すとしました。もし本当にこの価格で大量のロボタクシーが売り出されて、それが利用できる社会になったらどうなるでしょうか。
タクシードライバーの仕事は激減するでしょう。
タクシードライバーの現状
現在、アメリカのタクシードライバーの年収は、米連邦取引委員会のデータでは、ニューヨークで6万1,000ドル、サンフランシスコで5万3,000ドルです。ロボタクシーを3万ドルで購入して働かせておけば、半年ほどで元が取れるということになります。
人間のタクシードライバーであれば、長時間労働をさせてはいけないという法律もありますが、ロボタクシーの場合はそうしたこともありません。充電している時間以外は働き続けることができるでしょう。ですので、おそらく人間のタクシードライバーよりも長時間働くことになります。
投資対象としてのロボタクシー
もちろん、電気代や事故を起こした時のための保険料をどちらが負担するのかの問題もありますが、この価格設定だとロボタクシー投資は儲かることになるでしょう。そうすれば、ロボタクシー投資をする人が増え、ロボタクシー間の価格競争が始まり、人間のタクシードライバーは立ち行かなくなる可能性があるでしょう。
運用コスト
技術的な面を考慮すると、遠隔操作のためのスタッフが必要など、そうした議論もあります。そのため、実際はもう少し運用コストが高くなる可能性もあります。それでも、そこそこリターンが取れるような状況になるとすると、利回り重視の投資家の投資対象の一つになる可能性もあるでしょう。
駐車場経営
イーロン・マスク氏が言うように、駐車場がいらないような世の中になれば、駐車場の経営に代わりロボタクシーの経営が資産運用の一つになるかもしれません。
ロボタクシーの未来
ロボタクシーの話は期待されながらもなかなか実現しない状況が続いてきました。しかし、今後も実現しないわけではないはずです。現在はできないが将来はできる、そう言われてきたことの多くを人類は実現してきています。すでに多くの人が、ロボットが私たちの社会の中で活躍する未来を想像している状況です。ロボタクシーも遅かれ早かれ実現すると思った方がいいでしょう。
目先のことだけを考えている人は悲観していますが、重要な変化はまだこれから訪れるということ、投資家は頭に入れておいた方がいいでしょう。
ご参考