日本のNISAと英国ISAの比較
日本のNISAと英国ISAについて
NISAとISAの関係
令和5年度税制改正により、NISA(少額投資非課税制度)に関して見直しが行われ、令和6年1月1日から新NISAがスタートしました。
NISAという制度は、イギリスのISA(Individual Saving Account=個人貯蓄口座)という制度をモデルに作られたもので、Nippon Individual Saving Accountの頭文字をとっています。
日本のNISAは少額投資非課税制度であり、「投資」という言葉が含まれていますが、イギリスのISAには含まれていません。イギリスのISAは、リスク資産への投資を促進するためではなく、預金を含めた資産形成を奨励する制度です。ここに両者の違いがあります。
ISAの概要
イギリスのISAがどのような時代背景で生まれ、社会にどのような影響を与えているかという観点で解説します。
ISAは1999年に導入された制度で、Individual saving accountの略称です。直訳すると、個人の預金口座になります。預金を含めた資産形成を促すために作られた制度です。
イギリスの国民性
イギリスの国民は貯蓄をあまり行わない傾向があり、これは他の欧米諸国でも見られます。1980年代には国民の預金が減少し、社会保障制度の維持が難しくなりました。イギリスでは、その後も経済成長が低迷し、少子高齢化も進んでいました。これらの要因から、国民に貯蓄を促す必要性が生じました。
ISA導入の背景
イギリスでは1980年代頃に、国民に預金を促さないとまずいという状況が起こりました。その要因の一つが、いわゆる「ゆりかごから墓場まで」というイギリスの社会保障制度の維持が難しくなってきたことです。
「ゆりかごから墓場まで」というのは、戦後に始まったイギリスの社会保障制度のことで、生まれてから死ぬまで社会保障制度が充実しているというものです。「ゆりかごから墓場まで」というのは、この制度を導入した労働党が作ったキャッチフレーズです。この「ゆりかごから墓場まで」を当てにして、あまり貯金をしなくなったと言われています。
また、1990年代にポンド危機などの経済衰退が起こりました。ポンド危機では、ヘッジファンドマネージャーのジョージ・ソロスがポンドを売りにかかり、膨大な利益を得ました。この危機の背景には、国内の貯蓄不足や経常収支の赤字がありました。こうした状況を改善するためにも、ISA制度が導入されたと考えられます。
ISAの利用状況
イギリスのISAは株などのリスク資産だけではなく、預金も対象になっています。預金から得られる利子がISAを利用することで非課税になるということです。
ISAの利用状況を見ると、2022年時点での残高は76億ポンドで、18歳以上の国民の42%が利用しています。
日本のNISAとの比較
日本の場合、もともと国民がたくさん預金をしています。イギリスでISAが導入されたのとは大きく状況が異なっています。
日本のNISAは主に株式や投資信託などのリスク資産への投資を対象としています。リスク資産への投資を促進することを目的としており、資産形成を通じて投資家の資産を増やすことを目指しています。
私の考え
日本のNISAは、イギリスのISAと違って、リスク資産への投資を促そうという意図があるということは、利用する方はよく理解しておいた方が良いと思っています。そこは、単に資産形成をしましょうと言っているイギリスと大きく異なる部分です。
リスクの低い預金からリスクの高い投資を促すにあたっては、それが素晴らしいことであるように宣伝をするのではなく、確率は低くても失敗する可能性があるということを伝えていくことも重要だと考えています。しかし、世の中に、そうした失敗した時のことを伝えることが少ないと感じています。「リスクがありますよ」という説明が非常に少ないことに、私は若干の違和感を持っています。
過去のリスク資産のリターンなどから考えると、国民の資産形成の観点からも、もう少し日本国民はリスク資産を保有した方が良いのではないかという意見があるのも承知しています。しかし、株式市場というものがずっと上がり続けるとは限りません。一人一人が納得し、よく理解して資産形成をするのが望ましいのではないかと私は思っています。
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