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コーヒーショップに見るイギリス経済の変化


イギリスのコーヒーショップ事情

 イギリスには、日本のようにいつでもフレッシュな食べ物が売っているコンビニは存在しません。そのため、軽食を取りたいときには、多くの人々がプレタ・マンジェをはじめとしたコーヒーショップを利用します。プレタ・マンジェの他にも、コスタ、カフェ・ネロ、スターバックスなどがあります。

プレタ・マンジェの概要

 イギリスで最も有名なコーヒーチェーンの一つであるプレタ・マンジェについて、今回は詳しく説明します。プレタ・マンジェは、イギリス国内に約500店舗を展開しており、ロンドンでは1駅に1店舗以上のプレタ・マンジェがあるというイメージがあります。
 プレタ・マンジェは、1986年に誕生したコーヒーショップで、当時のロンドンの人々があまりにもひどい食事をしていたということから、ロンドンのビジネスマンにフレッシュな食事を提供しようという目的で設立されました。創業者は現在、世界に多くの飲食店を展開する企業のオーナーで、当時のロンドンの人々が添加物まみれの食事をしていたと語っています。

ベジタリアン向け店舗「ベジー・プレット」の閉店

 2016年から、プレタ・マンジェはベジタリアン向けの店舗「ベジー・プレット」を拡大していましたが、これを2022年末に全て閉店すると発表しました。このベジタリアン向けの店舗が閉店に追い込まれた一つのきっかけは、コロナショックでした。ベジタリアンの人々、つまり「意識高い系」の人々が多く、金融街などのオフィス街で働く人々の中に多い傾向があります。そうした街にベジー・プレットを展開していましたが、コロナをきっかけに在宅勤務が増え、オフィス街に「意識高い系」の人々があまり来なくなってしまいました。コロナパンデミックから社会が正常化しても、オフィス街に人が戻ってこない状況を受けて、2022年末にプレタ・マンジェはベジー・プレットを閉店することを決めました。

 このベジー・プレットを閉店するに至った理由は、これだけではありません。ビーガン製品の需要自体が思ったほど伸びないといったことも影響したと見られています。プレタ・マンジェは、もはやビーガン向けだけの店舗は経営が成り立たないと述べています。

ビーガンフードのブームとその後

 イギリスでは2010年代にビーガンフードが非常に人気になりました。その背景には、肉を生産する際に発生する温室効果ガスの問題などの環境問題への意識の高まり、野菜を多く摂取することによって肥満を防止するなどの健康面の意識の高まり、大豆などから作られた代替肉などの技術が向上したことなどがありました。こうしたビーガンフードへの関心の高まりを受けて、プレタ・マンジェもベジー・プレットを拡大していきました。
 しかし、最近ではビーガンフードへの需要が思いのほか伸びなくなってきていると言われています。その背景には、インフレと景気の悪化で高いお金を払って野菜ばかり食べられない人々が増えてきたことがあります。2022年以降、イギリスでは先進国で最もひどいインフレに見舞われており、経済成長率でもドイツと最下位争いをしている状況です。多くの国民が食事の回数を減らしていると言われている中で、ビーガンフードを好んで食べるような人々が増えるような環境ではないと言えるでしょう。

 また、ビーガンフードのブームが去ったといった面もあります。元々イギリスではあまり流行りを追いかけたりすることもなく、新商品が出てきたりすることもほとんどないので、ブームが起こったりすることも少ないです。しかし、2010年代のビーガンフードはややブーム的な面がありました。これは、代替肉を生産する科学メーカーなどの宣伝による面もあったかもしれません。そして、当時のイギリスでは脱炭素に向けた動きもこれを後押ししていました。

イギリス社会の変化

 最近ではそうした雰囲気はやや後退しているように感じます。ロンドンでも、ゼロエミッションゾーンという温室効果ガスゼロの車しか走れなくする規制の導入を見送ったり、ガソリン車・ディーゼル車販売ゼロの目標達成を後退させたりしています。国民の脱炭素に向けた意識にやや変化が見られるような部分もあります。環境問題よりもまず目先の生活を重視する人が増えているものと見られています。
 今回のプレタ・マンジェのベジタリアン向け店舗の閉店については、こうしたビーガンフードのブームが去ったことや環境問題への意識の変化など、大きなイギリス社会の変化の中で起こっていることだと見ることができます。

プレタ・マンジェのサービスと物価上昇

 プレタ・マンジェには「サブスクライブ」サービスがあります。このサービスを契約すると、1ヶ月間一定の金額でコーヒーや紅茶、エスプレッソ、カフェラテなどの温かい飲み物がほぼ飲み放題、1つの契約で1日4杯まで飲むことができます。このサービスが開始されたのは2021年の初め頃で、当初は20ポンドだったと思いますが、現在は40ポンドになっています。つまり、3年ほどの間に価格が2倍になっているということです。イギリスの物価上昇がなかなかすごいというのがお分かりいただけるのではないでしょうか。こうした物価上昇の中では、割高な野菜ばかりを食べたいと思う人がなかなか増えるような状況ではないと言えるでしょう。

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