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2023/12/23 旅の記録②ー映画の町、尾道を歩く

二日目の朝。

尾道市海岸通りのurashima INN -GANGI-の屋上から見える景色

この日はJUNの趣味で、大林宣彦監督による『転校生』(1982)のロケ地を訪ねることになった。ただ歩きだして気づいたのだが、特に目印はなかった(あとで調べたところ、監督の意向でそういった看板などは掲げないことになったという)。道に迷ったけれど、それでよかったのかもしれない。坂を上がったり、下がったりして、尾道の町を堪能しながら、ロケ地にたどりつくことができたから。

この狸たちをみつけたら、ロケ地はもうすぐそこ

『転校生』は、中学生の男女の身体が入れ替わるというストーリーだ。わたしはリメイク版(観月ありさといしだ壱成主演のドラマ)しかみたことがなかったが、それでも青空の下に広がる尾道の町の景色に感動した。そして、この階段でふたりが入れ替わったんだときいたとき、観てもないのに妙に納得した。こんな急な階段から落ちたら、あまりの衝撃に体から魂が飛び出してもおかしくない。

『転校生』で「わたし」と「おれ」が入れ替わる場所

ロケ地散策中、JUNが、恋愛のさらにその先を描いた深い物語なんだと始終、絶賛するものだから、旅から帰り、さっそく『転校生』を観た。主演を務める若き小林聡美さん(斉藤一美役)が堂々とシャツを脱ぎ、文字通り体当たりの演技をしている。若いながらも、覚悟ある立派な女優の姿だった。あと驚いたのは、サンリオがスポンサーを撤退するのが分かるほど、男女の裸のシーンが多かったこと。念のためいっておくと、そこにいやらしさはない。監督が、男女の違いを真摯に描き出しながら、男女を平等にみているのが分かるのだ。もちろんあの有名なラストシーンは最高でいつまでも心に刻んでおきたい――「さよなら わたし」、「さよなら おれ」。

さて、旅の続きに戻ろう。

(子どもの頃ならちょっとした冒険気分を味わえそうな町の構造が楽しい)

ちょっときついスケジュールではあったが、ロケ地散策のあとはシネマ尾道で映画を観ることにした。シネマ尾道は、かつてつぶれかけていた映画館を、あるひとりの女性、河本清順さん(現在の支配人)が再建した映画館だ。JUNが前々から「パワフルな人」と話題に出していたので、気になっていて、どうしてもこの映画館で映画を観たかった。携帯で上映時間を検索すると、11時ごろから『バカ塗りの娘』という映画をやっている。もうあまり時間もなかったので、ロケ地をあとにし、早歩きで尾道の商店街を抜けていく。

味のある商店街の風景1(クリスマスイルミネーション)
味のある商店街の風景2(おしゃれなイラストが目を引く)

やっと映画館につき、200円のコーヒーを頼んで、いそいそと席につく。ちなみに自由席。席はゆったりとしていて、わたしの短い脚なら思いきりのばしても前にぶつかることもない。コーヒーもかなりおいしかった。

シネマ尾道 館内①

今回観た、鶴岡慧子監督の『バカ塗りの娘』は青森県の伝統工芸品「津軽塗」を題材にした映画だ。将来が見えず、ただぼおっとレジを打つだけの毎日を送っていた不器用な女性(堀田真由さん演じる)が父の仕事「津軽塗」を手伝ううちに、自分の道を見つけ、伝統工芸に自分の色を添えて成長していくというストーリー。同性愛者の兄の結婚や老人ホームで暮らす祖父など時代をとらえたエピソードも交えている。BGMのない静かな映画で、しみわたった。

シネマ尾道 館内②(『ゴーストワールド』はいい映画ですよね)

初の尾道だったが、若者たちがぐいぐいひっぱって町が蒸気している印象を受けた。軒を連ねる古ぼけた(そして味のある)空き家に、斬新なアイデアを吹きこみ、新しい形に再生させている。だからといって古いものをないがしろにするのではなく、昔からのものに対するリスペクトを忘れず、うまく共存しているところが素晴らしい。

斬新なアイデアといえば、この無人24h営業の「おむすび屋しろくま」。だれもいない小さな和室で食事ができる
「おむすび屋しろくま」の和室にて、食後はおもちゃ(子どもの頃大好きだった!)で一勝負
映画館の近くにある味のある建物(傾いている?! 昭和のわたしも頑張ります)

ただ、シネマ尾道ができたのは、そうした動きが起こるずっと前のことと聞く。衰退の一途をたどるかにみえた町で、映画館を復活させ、町を盛り上げた河本清順さんとは、まさにパイオニア的存在ではないか。

映画の町、尾道に映画館がないのはつまらない。これからも末永く存続してくれることを願っています。

シネマ尾道


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