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2024/01/06~07 美容室をめぐる週末のこと、祖母のくるくるパーマの思い出

週末のこと。

まずはついてない土曜。

朝、わたしは川沿いを走る。川沿いには高層マンションが建ち並び、遠くにはスカイツリーがそびえたつ。田舎から出てきたわたしからすれば、ここはまるでNY(東京の下町に生まれ、そこで育ったJUNは笑う)。NYの朝、キャップをかぶり、髪の毛をひとつにくくった美女がぴたっとしたパンツをはいて、さっそうと走っているところを想像する。わたしはというと、パンツはぴたっとしているが、それはGUのものだし(ちなみにGUの1980円のパンツはすぐれもの)、ぴたっとしているのはわたしが太っているからでしかない。おまけに、ぼさぼさした髪を振り回して走っていてあやしさ極まりないといえよう。くくるほど長くないのも悩ましい。

というわけで、髪を切ることにした。今のところ、行きつけの美容室というのはないので、毎回ネットで調べて、近所にあるよさそうなところを適当に予約している。その日、予約時間(11時)の1時間前に、美容院の近くにあるマックに到着した(こんな感じでいつも効率が悪い)。ところが、時間になって美容室に行くと、「すみません、今回予約いただいた美容師が男性のお客様のみ担当しているんです。12時なら予約をとれるのですが」といわれてしまった。ネットで予約をしたときに、男性しか切ることのできない美容師を誤って選んでしまったようだ。というか、そんな切り分けがあるとは、この日まで知らなかった。

ただ、もう12時まで待つのはいやだったので、「じゃあ、また今度お願いします」といって店を出た。一方で、わたしの髪はもうぼさぼさの限界であり、家まで歩いて帰る途中で、我慢できずに「たのもう」と3軒の美容院の扉をたたいた。が、どこにも相手にされなかった。まったくついてない。

日曜の朝。

昨日懲りずにネット予約した、また別の美容室に行った(わたしの住んでいるあたりは、やたら美容室が多い)。横の席には小学生らしき女の子。どうやらひとりできたようだ。こんなおしゃれな美容室で堂々として、おまけにおしゃれな美容師と会話を楽しんでいるとは、さすが都会の子は違うと、感心する。

わたしは子どもの頃、祖母とふたりで、ご近所さんがやっている美容室に通っていた。普段の祖母はほっかむりをかぶり、泥だらけで田んぼの手入れをしていたのだが、髪を切る日は赤い口紅を塗り、きれいな緑のワンピースを着て、おしゃれを楽しんでいた。

その美容室は、いかにも金持ちそうな家の離れにあった。祖母はいつもそこで、くるくるパーマにしてもらっていたのだが、パーマは時間がかかるので、もうとっくに髪を切り終わったわたしは、フランス人形やオルゴールやバラの花や複雑な模様の敷物(ペルシャ絨毯?)をながめて時間をつぶした。時間をかけただけあって、パーマをかけたばかりの祖母の頭は、ぜんまいの頭の部分みたいなくるくるになる。あれは正解だったのだろうか。いまだにわたしは、パーマがとれかけた(大きめの丸のくるくる頭の)祖母がかわいいと思っている。

その美容室のマダム(おばさんというよりマダムっぽい)は髪の毛を洗うのが上手だった。髪の毛を洗うとき、じゃがいもか何かを扱うかのようにごしごし洗うのだが、それがとっても気持ちいいのだ。ただ、マダムは洗髪に夢中になりすぎてしまうのか、わたしの頭の後ろ側を洗うとき、自分の胸のあたりにわたしの顔を押し付けて、がしゃがしゃごしごし洗うくせがあった。胸なのか肉なのか分からないのだが、マダムの胸のあたりに顔をうずめながら、ちょっと豪快すぎやしないか、といつも思っていた。それについてどう指摘すればいいかもわからなかったので、ただ目をつぶって時間が過ぎ去るのを待った。そういえば、祖母はくるくるパーマは気に入っていたが、がしゃがしゃごしごし洗われるのは好きではないといっていたな(もしかして、そのせいでは?!)。

わたしは中学に入るまで、マダムの手で、完璧なおかっぱに仕上げてもらっていたが、やがてわたしは思春期に入ってしまい、その完璧なおかっぱが気にいらなくなった。まわりの友だちからも、まっすぐに切りそろえられた前髪をばかにされた。それがいやで、雑誌の切り抜きを持っていき、「こういう髪型にしてください」と頼んだことも何度かあった。でも、いつだって、完璧なおかっぱ姿で、美容室をあとにしなければならなかった。「ああ、そうか。マダムはおかっぱかくるくるパーマしかできないんだ」と思ったわたしはあきらめて別の美容室に通うようになった。

そんなことを思い出しているうちに、満足のいくおかっぱに仕上がっていた。前髪も眉毛の上にまっすぐ切りそろえられている。大人になったわたしは、不思議なもんで、子どもの頃あんなに嫌がっていた、おかっぱ姿に満足している。

祖母はもう十年も前に亡くなった。いつかわたしも、くるくるパーマに挑戦してみようかな。

おまけ

髪を切るときは、必ず本を持っていく。今回は『わたしを空腹にしないほうがいい』を読んだ(ある飲み物について間接キスにふさわしくないと主張する彼氏のエピソードとかおもしろかった)。たまに美容師さんと話が盛り上がるときもあって、そんなときは本を置くのだけど、盛り上がるとたいていその美容室にはもう二度と行けなくなるので、盛り上がらないようにしている。この日はいい感じに盛り上がらなかったので、また同じ美容室に行くと思う。

くどうれいん『わたしを空腹にしないほうがいい』







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