見出し画像

「しあわせな時間」だけを描く難しさ。

「ただ幸せなだけ」というシーンを描いたマンガをよく見るようになった。ほっこりというかまったりというか、意図的なぬるま湯みたいなものも多い。
昔だと「で、オチは?」とか「ここからの展開があるんだろ?」と思われたりしていたようなものだが、これに関してはない。「まったり。しあわせ。終わり。それで何が悪い?」という感じ。

実際、何も悪くない。「何か引っかかりがないと、裏切りがないと」というのは昔の定型に沿うと、という前提がある。ただ、最初からこれをめざすのは実はけっこう難しいのではないかと思っている。
「何も起きないのに読者を満足させる」ためには、それなりの画力や構成力、何より雰囲気力が必要だからだ。いや雰囲気力って当たり前のように書いてるけど何?と思われるだろうから補足すると、「ただ絵が上手い下手ではなく、空気感を出せるかどうか」である。造語だが。
そこを勘違いすると「オチもなく起伏もなくただ退屈な絵面」ができあがってしまう。

こういうのは、必ずしも精密な画力などを求められるわけではないので一見ハードルが低そうにも見える。しかし、けっこう独自の味がないとダメというか、正直「あ、これは雰囲気系を狙っているな」と思ったものがすぐ連載終了する例も見る。
その例で言うと一つよく見かけたのが、「飯系漫画」である。「孤独のグルメ」のドラマがヒットし原作が注目されたのをいいことにめちゃくちゃ増えた。
同じ原作者の「花のズボラ飯」「野武士のグルメ」は、さすがにちゃんと雰囲気力を備えていると思うが、正直「別に美味しそうにも見えないしドラマ部分も微妙」というものもたくさん見かけた。そしてそういうものはやはり長続きしなかった。「まぁ~た●●めし系か!」と思うと終わっている。二匹目のドジョウどころか、50匹くらいいたのではないだろうか。
とはいえ「食」を扱うこと自体はやはり昔から魅力のあるジャンルで、「きのう何食べた?」「深夜食堂」など、ヒット作も多い。いずれも大きい事件や怒涛の展開を見せるわけではないが、巧みなドラマが独特の雰囲気を醸し出している。
ちなみに大ヒットとまではいかないが、「極道めし」は異色の作品で面白かった。何が面白いかといえば、出てくる料理を実際には食べないのである。というのも全員が収監されている状態で、おのおの「料理を賭けて、それぞれが美味しかった料理の話をする。唾を飲ませたら1ポイント」という勝負をやっているのだった。この設定が面白く、映画化もされている。

いきなりグルメ系漫画の話ばかりしてしまった。雰囲気系の話に戻そう。
雰囲気系は「大きな事件がない」「笑いはあるが勢いのギャグなどではなく、クスリと笑える感じ」「キャラクターの関係性で見せていく」といった特徴がある。
事件がないとはいっても同じキャラが同じようなゆるい話を毎回やってるわけにもいかないのでキャラが増えるという寸法だ。このへんのキャラクター設定がうまくいくかどうかが安定化につながっていると思う。

日常系で有名なのは「よつばと!」であろうか。時間の進みがすさまじく緩やかな漫画としても知られている。けっこうギャグがふんだんに挟まれたりもするので「何も起きない」わけではないのだが。こういった漫画以外では、「もうこの作者の絵自体が雰囲気力」というパターンがある。今日マチ子などはもう作品に関わらず色使いやタッチだけで雰囲気力が出ている。そう考えてみるとやはり画力は一つの指針だ。
個人的には石黒正数作品「木曜日のフルット」「それでも町は廻っている」あたりは特に何とも言えない雰囲気がある気がするのだが、雰囲気系と言われると…とも思う。そう考えると書いてるほうも「雰囲気系ってなんだよ」と思ってるかもしれないなあ。

サポートいただけた場合、新しい刺激を得るため、様々なインプットに使用させていただきます。その後アウトプットに活かします、たぶん。