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今日の仕事が楽しみじゃない世界。


話題になっていた「ディストピア広告」について、ちょっと脊髄反射的に書く。
いわゆる炎上案件だが「今日の仕事は、楽しみですか。」をメインメッセージとした広告が東京の品川駅に掲出されて話題となった。自分は東京在住ではないので最初全く知らなかったが、本当にネットは拡散が早い。

どうやら調べてみると批判が集まって翌日に出稿を取り下げたらしい。ということは広告としては失敗だったと言える。

内容としてはざっくりまとめると以下。

●「今日の仕事は、楽しみですか」がメインメッセージとなり、話題に
●人材育成やNewsPicks法人事業などのアルファドライブが出稿
●静止画像が出回るが、実際は15秒ほどの動画
●「仕事が楽しみじゃなきゃいけないのか」「月曜の朝から憂鬱になる」「心を折りに来ている」などと批判が噴出

ちなみに動画では上記のメッセージに続いてアルファドライブのめざすシーンが語られ、「ビジネスに衝動を。ビジネスに鼓動を」というコーポレートメッセージに続いていく。これを見て「15秒ちゃんと見てみると印象が違う」という意見も見た。
これに対して個人的には「印象が多少薄まるかもしれないが変わるわけではない」というのが正直なところ。

なぜ炎上したのか。それは「前向きメッセージのように見えて上から目線になっていたから」だと思う。そしてこれは社会情勢にも関係している。もし日本中がハッピーで、品川駅でビジネスに向かう人がみんな笑顔だったなら、このメッセージも「今日の仕事は楽しみですか」→「もちろん楽しみだよ!」となって特に問題にならなかったであろう。
まぁもしそういう状況だったら広告自体出さないだろうけど。

このメッセージの裏には本来は「今の仕事で幸せですか?どうせなら、楽しみにできるような仕事をしよう!それをサポートするのが私たちですよ」という意図があるのだと思われる。
実際アルファドライブのホームページを見てみると「Value」の項目に「必ず、可能性を信じる」「フラットに徹する」「発明をしつづける」「常に自分らしくある」「縦横無尽に、働く」という5つのワードがあり、何というか「ビジネス最前線にいるぜ!」「私たち楽しく仕事して高い給料取って充実してます!」という雰囲気がある(たぶん偏見)。
ただ、結局何の仕事なのかは実はあまりよくわからない。どうやら新規事業開発支援などらしいが、新規事業って何の?どういう内容?とも思う。まあこれは自分がそういうのと縁遠い位置にいるからだろう。

もしこれが上場企業のエリートビジネスマンが読むような雑誌に掲出されたのであれば、たぶん炎上はしなかったと思われる。満員電車、多すぎる人口、疲れた人々、という数え役満のような要素の中に出すからああいうことになる。ただそもそもこういった内容を掲出する時点で、広告主にはネガティブな感情というのは、おそらくない。「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」と近い精神性なのではないだろうか。

「何で我慢して仕事してんの?ツライなら辞めればいいじゃん?仕事ってのはもっと楽しくあるべきだよ?俺たちみたいにね!」という感じ。要は「充実して仕事しようよ」と呼び掛けるわけだから、本来は何もネガティブな要素ではない。ただだからこそ「我慢している人々」「ツラくても頑張っている人々」「仕事だから仕方ないと耐えている人々」にはより深く刺さって反発が強くなる。お前に何がわかる、という感情だろう。

「何で周りは止めなかったのか」という意見も見たが、おそらくポジティブ性から発したメッセージゆえに反対意見も出づらかったのだろう。「みんなが仕事を楽しみにするような社会になったらハッピーじゃない?いいんじゃない?」とかグイグイ来られたらそういう会議の席で「世の中そんなハッピーじゃねえんだよ」とは言いづらい。ネガティブな人材だと思われたくないだろうから。

そう考えるとこの炎上は社会的な問題でもあるのかもしれない。ただ、大前提として広告主は「いいメッセージのつもりでも鼻につくと思われたら即座に叩かれる」ということを覚えておかなければいけないという教訓になっただろう。

サポートいただけた場合、新しい刺激を得るため、様々なインプットに使用させていただきます。その後アウトプットに活かします、たぶん。