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いかにして私はコピーライターを挫折したか。 第12話 流転編

普通、タイトルをつけたらそれに沿った内容になるものだと思うが、このシリーズの場合どんどん脇道にそれていくので「どこが激動なんだ」みたいになっている。自分が編集者であれば指摘するポイントだと思うが、自分で書いている上にほとんど一発アップしているので……。推敲?ブラックエンジェルズで義手にマシンガン仕込んでた奴かな?(それは水鵬


急に新たな分社化をするのには、もちろん理由があった。
広告の仕事は広告代理店あってのものだが、大手クライアントだと複数の広告代理店が絡んでくる。競合となるのが最たる例だが、新聞広告はA社、ポスターはB社といったように媒体ごとに振り分けられることもある。そうなると、同じプロダクションに依頼すると中で情報が筒抜けということになってしまう。それを避けるための分社化というわけだ。

といった事情を説明されて理屈としてはわかったものの、自分には不安があった。酒村さんと呉田(仮名)さんという2名のアートディレクターが中心となって立ち上げるという話だったが、自分しかコピーライターがいないのである。呉田さんのほうはコピーライター出身のディレクターと組むことが多いのでコピーを頼まれることはないとして、酒村さんの仕事はすべて自分が担当するということになるのだ。やべえ、自信ねえ。

なんのかんの言ってそれまでコピーをこなしているにも関わらずそんな精神状態だったわけだが、酒村さんもそれを感じ取ったのか激励&給与アップの話をしてくれてあっさり気持ちが傾いた。それによく考えるともともと社内にほかのコピーライターがいても協力体制を取ることがほとんどなかったし。ただ、このくらいの時期でもう一人坂田(仮名)君という新人コピーライターが入ってきていて、自分の下についてもらっていたこともあり、一緒に移ることとなった。人を指導する立場になるのは初めてだったが、これは非常に難しかった記憶がある。

新会社はもともとのオフィスから歩いて数分の場所。交通の便的にも変わりはなく、いっちょやったるかい、と前向きになったりもした。新体制となり、一番年上のコピーライター(20代なのに)となってしまったことで、気負うものもあったが、まずは坂田君をどう指導するかで迷った。坂田君は非常に真面目だったがリアクションがあまり表情から読めないタイプで、説明に納得しているのかどうかがよくわからなかったのである。しかも、自分の場合すぐ先輩が抜けていってしまっていたため、参考にできるイメージがあまり具体的でない。とにかく自分も一緒になって考え、比較的書きやすいかなと思った部分は書かせてみたり、と色々試してみた。

ちなみに酒村さんはお子さんがいたこともあり、週末は可能な限りちゃんと休みを取るスタイルだったが、呉田さんのほうは当時独身で、仕事第一のため結構週末も仕事したりしていた。それぞれがチームを持っている状態だったのだが、なんとなく下っ端同士の交流もなくなり、だんだんとこのスタイルの違いが溝となっているな、と感じていたら案の定亀裂が入った。

「明日の朝話し合いの場を持つことになったので」

いつも深夜作業のためみんな朝が遅い。自分もがんばって起きたのだが10分ほど遅刻してしまった。それでもいつもよりかなり早いし大丈夫だろう…と思ったらこちらのチームは酒村さん以外来てなくて、呉田さんのチームは全員来ているという状態。気まずい。酒村さんにも時間通り来いと怒られたが、そもそも呉田さんからしてみれば話し合いしようと思ったのに来ない奴らばっかりということで完全に心が離れてしまった感があった。
まぁ正直話し合ってたとしてもどうにかなったようには今でも思わないが。

結局分社化した新しい会社からまたまた呉田さんのチームが独立するという話になった。どんだけ細かくなっていくんだよという気もするが、実はこういった少人数チームの独立というのは広告プロダクション業界では非常によく聞く話であった。社長ともめて独立とかディレクター同士がもめて独立とかクライアントの仕事を持って勝手に独立とか、アメーバ分裂みたいな話があちこちで起こっていたのである。

ギスギスした話ばっかり書いてるので、次はちょっと小休止的にどんなコピーライターがいたかなどを書く予定です。

次回、交流編に続く。

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