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小学生のときに憧れていた・・・鼻血

教室で誰かが叫ぶ。
「先生!○○さん鼻血ぃー!」
○○さんはポタポタ落ちる鼻血を片手で受けながら困ったように床に視線を落とす。
先生がサッと歩み寄り○○さんの鼻にティッシュを丸めて詰め込みしばらく顔を天井向けているように指示する。

いいなあ。いいなあ。
なんかかっこええ。
私は、鼻血を出したことがない。
そして、「みんなの前で鼻血が出る」という状況の主人公にずっと憧れていた。

鼻からポタポタ落ちるほどの大出血なのに当事者は別に痛いとか苦しいとかの表情を見せず、ただ「もう、めんどくさっ」ぐらいにしか思ってなさそうなところがなんか洗練されたように思えた。

私も、みんなの前で急に鼻血を出して
「先生っ、鼻血出てやる」
と近くの席の子に言ってもらいたかった。
望む鼻血が出ないもんだから家でティッシュを丸めて鼻に詰め、気分だけ鼻血出ました・・・を味わっていた。
まあ、今思うとアホちゃうか・・・です。
鼻血はティッシュを詰めるとすぐとまる。
鼻血の主人公は、鼻から紅白バージョンたけのこの里のようになったティッシュを鼻から取り出し何事も無かったようにごみ箱に捨てる。
「大丈夫なん?」
と尋ねると
「うん。ちょっと血ぃの味するけど大丈夫。」
って。
血ぃの味!!
想像を絶する言葉。

そのうち、鼻血に慣れている人はもっとすごいという場面を見せられた。
まだ何も出てないのに、異変は見られないのに
「あ、誰かティッシュ持ってへん?もうすぐ鼻血出るわ。」
という鼻血予告をするのだ。
そして事前に鼻に詰め込むティッシュ。
もうパーフェクト!

こんなに憧れていたのに私は義務教育の9年間のみならず成人するまで鼻血は一滴も出てくれなかった。


そして、もうひとつ憧れていたのが朝礼の時の校長先生のお話なんかの時にフラフラっと貧血で倒れてしまうこと。
倒れる、というのが何ともドラマティックなように感じていたのだ。

倒れるってどうなるんやろ。

率直な疑問だった。
倒れるってどんな状態になっているのか想像もできない。

ところが小学五年生のある日、私はもう想像する必要が無くなった。
そう。
もう想像しなくていいのだ。

それは、図工の時間だった。
前回の授業で仕上げた木版画を一人ずつ前に出てみんなに見てもらい
評をしてもらう時間だった。

私の番が回ってきた。
みんなの前に立ち作品を広げ
「どうですか・・・・・・」
を言うつもりがその直前から耳元でヘリコプターのプロペラの音がパタパタパタパタ・・・と鳴り始め次第に音が大きくなってきた。
え?何なんこれ?え?え?
とわけが分からないまま、目の前のみんなの顔が見えなくなり変わりにテレビが故障したみたいな黒と黄色のシマシマの画面が波打つ。
そのうちに立ってられなくなった。
「どうしたん?!」と担任の井上先生が飛んできて支えてくれるのが分かった。
「大丈夫?」
「どうしたん?」
周りでみんなが言ってる声が聞こえる。
「先生、しんどい。なんかしんどい。」
と話しているつもりだけど言葉にならない。
どれぐらい経ったのかようやく目の前が見え、冷や汗をかいて座り込んでいる自分を認識した。
保健室でしばらく休んでいるように・・・と連れて行かれた。
保健室のベッドで休むのは初めてだ。
保険の先生は、貧血を起こしているから足を高くして横になってなさい、と休ませてくれた。
初めての保健室は何となく落ち着かなくて居心地悪い。

しばらくすると、気分が悪くなって吐いたという2年生の女の子が保健室にやってきた。
妹と同じ学年の子だ。
保険の先生が尋ねている。
「朝、何を食べてきたん?」
「お茶漬けとシューアイス」
「熱いものと冷たいものを食べたから気持ち悪くなったんとちゃう?」
保健室で横になりながら聞こえてきたこの会話。
それ以来私の中では、「お茶漬けとシューアイスを食べると気持ち悪くなる」と思い込んでいる。


保健室から教室に戻るとみんなに取り囲まれた。
さっきのは何だったの?
いきなりみんなの前で倒れてしまったので私以上にみんなもびっくりしていた。
「朝から具合悪かったの?」
先生がやさしく聞いてくれるけど私も何と答えていいかわからず答えられない。私自身にも何が起こったのかわかっていない。
極端に恥ずかしがりの私はみんなに取り囲まれるとまともに受け答えなんてできない。
ただ、もじもじして困っていた。
そしたら、一人の男子が
「お前、さっき倒れたときパンツ見えてたで。」
と言ったのだ。
何がお前じゃっ!
私は泣きそうになってますます何もいえなくなってしまった。
もう二度とこんな目に遭いたくない。
倒れるってもっとドラマティックなはずやったのに・・・






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