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バンコクマダム連載コラム『タイ生活』より  第2話・・・「虫歯の虫」

何年住んでもタイは日々驚きに満ち溢れている。
タイの市場が大好きな私は、まだ子供がいなかった頃、よくタイ人の夫を引っ張り出しては市場を物色することを楽しんだ。

 野菜、果物、肉類を売る店で賑わうその市場の一角に、ちょっとした人だかりができていた。
その人だかりの真ん中にいるのは、小さな台の上に透明の液体の入った小さなガラス瓶を並べて何か説明しているおじさん。
とっとと通り過ぎようとする夫を説き伏せ、人だかりの中へ突入。
何かを売っているらしいのだが、何とも怪しさ満点。
一体あの瓶の中身は何なのか知りたくてたまらない。


おじさんの話に耳を傾けていると、どうやら瓶の中の液体は「虫歯の虫を捕る薬」らしいのだ。
心の中で、「えええーっ!」と叫び声をあげる。


虫歯って、虫歯って・・・・・虫によるものだったのか・・・・・
そんなアホなっ!!!

おじさんは「今からこの薬を使って虫歯の虫を捕まえてみせる」と言う。
これは、何が何でも是非見たい。
人だかりの中をできるだけ前に進む。
いよいよ!おじさんによる虫歯の虫取り実演が始まる。


 
最前列で熱心に聞いていた男の人が指名され、実験台に。
「虫歯があるか?」と尋ねられ、
「奥に大きな虫歯があり困っている」と。
おじさんは、「まかせなさいっ!」と、余裕の笑顔。
親指の先ぐらいの大きさに丸めたコットンにガラス瓶の「虫歯の虫を捕る薬」をたっぷりと浸み込ませる。
実験台の男の人の虫歯を確かめ、そこに薬の浸み込んだコットンをあてがい、しばらく噛んでおくように指示をした。
1分ほど待ち、おじさんはピンセットで噛ませておいたコットンをつまみ出す。
「さあ、皆さん!よくご覧ください!虫歯の虫が取れました。」と、ピンセットでつまんだコットンを注目する人々の目の前に示した。


「うぉーっ!」「ほぉーっ!」と、驚きの声が上がる。
私も、我知らず大声で驚きの声をあげていたに違いない。


なんとっ!!!そのコットンには、ちょうどネギの根っこほどの太さで長さ5ミリほどの白い「虫歯の虫」がニョロニョロと動いていたのだ!!!

それから、その薬は飛ぶように売れた。
私は「いったい、今のは何だったんだー。」と驚きのあまりポカンと口を開けていた。
もう一度さっきの「虫」を見たいと思った。
その正体を知りたい。

ほしい!ほしい!
虫歯の虫を捕まえる薬!


側にいた夫に、「アホらしっ。インチキ、インチキ。さあ、行こっ。」と人だかりから引っ張り出されてしまった。


いまだに時々思い出しては気になるあの「虫歯の虫」。
あの白いニョロニョロの正体は一体何だったのか。
あー、あの薬をひと瓶買っておけばよかった。


 


❁お読みいただきありがとうございます。❁
これは、タイのフリーペーパー『バンコクマダム』に2013年から連載させてもらっているコラムをちょこっと編集し、まとめておきたくて書き留めています。



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