『セクシー田中さん』問題、やはり契約書なし
◉日本テレビの『セクシー田中さん』のドラ化問題ですが。問題の背景を掘り下げた記事が出てきたので、ご紹介。この件では日テレ以外のテレビ局はもちろん、テレビ局と深い関係にある新聞社など、報道に及び腰です。たぶん、多くで脛に傷持つ身なので、言及しづらいという部分はあるでしょう。なので、こういう記事は出版部門を持つ新聞社や、マンガ部門がある出版社からは、なかなか出てこない面もあります。
ヘッダーはnoteのフォトギャラリーより、メイプル楓さんのイラストです。
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■契約書なしの業界■
上記の記事は推測も入っていましたが、朝日新聞はハッキリと契約書を交わしていなかったことを報じていますね。出版社は、自分が勤務していた時代から、単行本の出版契約書を出さないほうが多数派で、契約書を見て驚いたベテラン漫画家もいました。なので今回の件も、そんなことだろうなとは思っていました。中には、こんな物を持ってくるなと怒る作家もいて。いわんや、連載仕事とかほぼ口約束です。普通の企業なら納期に間に合わなかったら違約金が逆に必要なのですが、そこもまぁまぁでやってきた部分もありますから、都合がいい部分もあるんですよね。
自社と作家の契約ですらそうですから、テレビ局とか第三者が入る場合、もっと雑になるか、逆に弁護士を入れてタイトになるか、両極端なことに。契約書を出版社が出すけれど、作家も締め切りに遅れたら違約金を価格の◯%出すという契約になれば、どっちも嫌がる面もあります。なので契約書を必須にする動きに、漫画家協会は積極的にはならないでしょうし、国会とかで取り上げて、法律で縛らない限りは、曖昧な状態を望む作家が、一定数でるでしょう。
■SNSに責任転嫁?■
そして、日付以外は全部間違いと揶揄される東京スポーツですが、ここは元々が右翼の大物であった児玉誉士夫がオーナーだった会社なので。政治とか芸能関係では、ジャニーズ事務所や吉本興業やバーニングにもあまり忖度せず、論陣を貼ることがあります。ピエロのメイクをしながら、実は強面の顔を隠していて。朝日新聞の記事からは分かりづらい、日本テレビと小学館の本音を、きっちりタイトルにしてくれています。SNS運用に課題があったのでは日本テレビでや小学館ではなく、SNSで犬笛を吹いた脚本家と、それに反論した漫画家が悪かったと、責任転嫁するんですか?
本来なら脚本家が犬笛を吹いた段階で、テレビ局と出版社がすべき説明をせず、犬笛に集まった連中が芦原妃名子先生を誹謗中傷していたことは、すでにネットの集合知で検証され始めています。けっきょく、日本テレビも小学館も、プロデューサーや担当者という社員は組合がうるさいので護っても、外部のスタッフとか個人事業主の作家にしわ寄せが来たわけで。結果、ストロングなハートを持つ脚本家はシナリオ作家協会まで援護射撃をしてくれ、繊細な芦原先生は自死を選んだと?
■個人的な雑感を…■
元出版社勤務の人間として、ここからは推測ですが。たぶん、芦原先生は約束と違うと、担当編集者に不満を伝えていたはずです。そして、担当編集者がどこまで動いたかは不明ですが、たぶん動いてくれたと思います。もし、担当編集者個人の問題なら、担当が怠惰だった責任転嫁して終わりですから。でも、映像事業部なり版権部の偉いさんが出てきて、ドラマ化されたら本の売上がアップするから、担当にわがまま言わすなと圧力をかけた可能性が、否定できません。あるいは、9話10話のシナリオを書くことで、無理を聞いた・大幅に譲歩した、ぐらいの感覚だったのかもしれません。
以前から書いていますが、小説や漫画やアニメや実写は、表現の手法が異なるのですから、映像化に当たっての改変は必須です。なので、一言一句変えずに・キャラのやることを変えずに、映像化は不可能です。芦原先生も、そういう意味での改変の縛りを要求していたわけではなく。実際、代表作の『砂時計』の映画化では、映画を絶賛していますしね。そうではなく、改変していい部分を乗り越えて、許せない部分まで改変してきたのが、大きな問題だったわけで。そこでずっと悩み苦しみ、精神的な辛さが蓄積していったのでしょう。繰り返しますが、推測です。
そして止むに止まれず、脚本家の一方的な言い分に、反論ではなく言葉を選んで事情説明した。それが、思わぬ形での批判も出た(肯定する意見も多かったですが、賛否を含めての絶対量の多さ)。それが最後のひと押しになった面が。弾はずっと込められていた、と考えるのが自然だと思いますよ。脚本家側からの犬笛から、反論に間があったことも、芦原先生の逡巡を感じますし。たぶん、こんな事が起きても、契約書の義務化とか、そういう話にはならないでしょう。でもそうして、旧メディア(テレビ・新聞・ラジオ・雑誌)は、穏やかな衰退を迎えていくだけではないかと。
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