見出し画像

『セクシー田中さん』問題、やはり契約書なし

◉日本テレビの『セクシー田中さん』のドラ化問題ですが。問題の背景を掘り下げた記事が出てきたので、ご紹介。この件では日テレ以外のテレビ局はもちろん、テレビ局と深い関係にある新聞社など、報道に及び腰です。たぶん、多くで脛に傷持つ身なので、言及しづらいという部分はあるでしょう。なので、こういう記事は出版部門を持つ新聞社や、マンガ部門がある出版社からは、なかなか出てこない面もあります。

【『セクシー田中さん』ドラマの原作改変、悲劇の背景を考える】nippon.com

1月29日、漫画家の芦原妃名子(あしはら・ひなこ)さんの訃報が伝えられた。自身の漫画が原作の日本テレビ系ドラマ『セクシー田中さん』を巡って、同局側の内容改変への不信感から終盤の脚本を自ら執筆する異例の事態になった経緯を公表した直後のことだった。ネット上ではドラマ関係者への批判の声が高まり、日テレや原作を出版した小学館はそれぞれ事実関係を調査中だ。クリエイターが作品を守るために行動を取らざるを得なかった悲劇の背景には、どのような問題があるのか。

https://www.nippon.com/ja/japan-topics/g02381/?utm_source=twitter#

ヘッダーはnoteのフォトギャラリーより、メイプル楓さんのイラストです。


◉…▲▼▲▽△▽▲▼▲▽△▽▲▼▲…◉


■契約書なしの業界■

上記の記事は推測も入っていましたが、朝日新聞はハッキリと契約書を交わしていなかったことを報じていますね。出版社は、自分が勤務していた時代から、単行本の出版契約書を出さないほうが多数派で、契約書を見て驚いたベテラン漫画家もいました。なので今回の件も、そんなことだろうなとは思っていました。中には、こんな物を持ってくるなと怒る作家もいて。いわんや、連載仕事とかほぼ口約束です。普通の企業なら納期に間に合わなかったら違約金が逆に必要なのですが、そこもまぁまぁでやってきた部分もありますから、都合がいい部分もあるんですよね。

【「セクシー田中さん」原作改変巡る契約書を交わさず 日テレと小学館】朝日新聞

 日本テレビ系で放送されたドラマ「セクシー田中さん」の原作者で漫画家の芦原妃名子さんが亡くなった問題で、ドラマ化の際の原作改変に関する詳細な取り決めについて、日テレが版元の小学館と契約書を交わしていなかった。日テレが26日、明らかにした。一方で最終的な脚本は、芦原さん側の承諾を取っていたとし、対応に問題はないとの認識を改めて示した。

 芦原さんは生前、X(旧ツイッター)での投稿で、ドラマ化にあたり「漫画に忠実に」などの条件を小学館を通じて日テレに伝えていたが、当初の脚本では「大きく改変された」などと訴えていた。一方で、26日の日テレの定例会見で福田博之専務は「できあがった作品の二次利用などについては契約を結ぶが、ドラマ制作の詳細について契約書は存在しない」と語った。制作過程や著作者人格権に関わる契約については、「作品ごとにはない。法律に基づいた枠組みでの了解は当然あるが、約束事を文書で取り交わしているわけではない」と述べた。日テレではそうした対応は一般的だとした。小学館は朝日新聞の取材に、契約について「開示できない」としている。

https://www.asahi.com/articles/ASS2V6F6BS2VUCVL01Z.html?ref=tw_asahicom

自社と作家の契約ですらそうですから、テレビ局とか第三者が入る場合、もっと雑になるか、逆に弁護士を入れてタイトになるか、両極端なことに。契約書を出版社が出すけれど、作家も締め切りに遅れたら違約金を価格の◯%出すという契約になれば、どっちも嫌がる面もあります。なので契約書を必須にする動きに、漫画家協会は積極的にはならないでしょうし、国会とかで取り上げて、法律で縛らない限りは、曖昧な状態を望む作家が、一定数でるでしょう。

■SNSに責任転嫁?■

そして、日付以外は全部間違いと揶揄される東京スポーツですが、ここは元々が右翼の大物であった児玉誉士夫がオーナーだった会社なので。政治とか芸能関係では、ジャニーズ事務所や吉本興業やバーニングにもあまり忖度せず、論陣を貼ることがあります。ピエロのメイクをしながら、実は強面の顔を隠していて。朝日新聞の記事からは分かりづらい、日本テレビと小学館の本音を、きっちりタイトルにしてくれています。SNS運用に課題があったのでは日本テレビでや小学館ではなく、SNSで犬笛を吹いた脚本家と、それに反論した漫画家が悪かったと、責任転嫁するんですか?

【芦原さん死去で小学館が社内説明会 日テレと良好関係、SNS運用に課題「痛恨の極み」】東スポWeb

 小学館にとってイレギュラーだったのはSNS上での〝応酬〟だった。

「芦原先生に大きな精神的な負担を強いてしまいました。これはXを削除されたことからも明白と思います。SNSの運用、使用に関して、日頃より社内での注意喚起などしてきましたが、今回の事態にあたり、SNSでの発信が適切ではなかったという指摘は否めません。会社として、痛恨の極みです」
(中略)
 会社としては「この事態に関連して、社員、関係者へのSNS等での誹謗・中傷は会社として絶対に許せません。悪質なものは会社として法的な手段をとります」と宣言。

https://www.tokyo-sports.co.jp/articles/-/291494

本来なら脚本家が犬笛を吹いた段階で、テレビ局と出版社がすべき説明をせず、犬笛に集まった連中が芦原妃名子先生を誹謗中傷していたことは、すでにネットの集合知で検証され始めています。けっきょく、日本テレビも小学館も、プロデューサーや担当者という社員は組合がうるさいので護っても、外部のスタッフとか個人事業主の作家にしわ寄せが来たわけで。結果、ストロングなハートを持つ脚本家はシナリオ作家協会まで援護射撃をしてくれ、繊細な芦原先生は自死を選んだと?

■個人的な雑感を…■

元出版社勤務の人間として、ここからは推測ですが。たぶん、芦原先生は約束と違うと、担当編集者に不満を伝えていたはずです。そして、担当編集者がどこまで動いたかは不明ですが、たぶん動いてくれたと思います。もし、担当編集者個人の問題なら、担当が怠惰だった責任転嫁して終わりですから。でも、映像事業部なり版権部の偉いさんが出てきて、ドラマ化されたら本の売上がアップするから、担当にわがまま言わすなと圧力をかけた可能性が、否定できません。あるいは、9話10話のシナリオを書くことで、無理を聞いた・大幅に譲歩した、ぐらいの感覚だったのかもしれません。

以前から書いていますが、小説や漫画やアニメや実写は、表現の手法が異なるのですから、映像化に当たっての改変は必須です。なので、一言一句変えずに・キャラのやることを変えずに、映像化は不可能です。芦原先生も、そういう意味での改変の縛りを要求していたわけではなく。実際、代表作の『砂時計』の映画化では、映画を絶賛していますしね。そうではなく、改変していい部分を乗り越えて、許せない部分まで改変してきたのが、大きな問題だったわけで。そこでずっと悩み苦しみ、精神的な辛さが蓄積していったのでしょう。繰り返しますが、推測です。

そして止むに止まれず、脚本家の一方的な言い分に、反論ではなく言葉を選んで事情説明した。それが、思わぬ形での批判も出た(肯定する意見も多かったですが、賛否を含めての絶対量の多さ)。それが最後のひと押しになった面が。弾はずっと込められていた、と考えるのが自然だと思いますよ。脚本家側からの犬笛から、反論に間があったことも、芦原先生の逡巡を感じますし。たぶん、こんな事が起きても、契約書の義務化とか、そういう話にはならないでしょう。でもそうして、旧メディア(テレビ・新聞・ラジオ・雑誌)は、穏やかな衰退を迎えていくだけではないかと。


noteの内容が気に入った方は、サポートで投げ銭をお願いします。あるいは、上記リンクの拙著などをお買い上げくださいませ。そのお気持ちが、note執筆の励みになります。
どっとはらい( ´ ▽ ` )ノ

売文業者に投げ銭をしてみたい方は、ぜひどうぞ( ´ ▽ ` )ノ