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Netflixがアニメーター育成支援

◉アメリカの動画配信サービスのNetflixが、日本でアニメーターの育成支援を始めるようです。Netflixのアニメ制作体制については、ちょっと問題があることを、元ガイナックス社長の岡田斗司夫氏が、指摘されている(後述)のですが。それは置いておいて、生活費と学費をサポートしてくれるってのは、大きいですね。日本でも、こういう独自育成の動きはあるのですが、大手資本が参入というのは、大きいです。

【Netflix、日本でアニメーターの育成支援】日経新聞

 米動画配信大手のネットフリックスは12日、日本でアニメーター育成支援を始めると発表した。提携を結んでいるアニメ制作会社、ウィットスタジオ(東京都武蔵野市)が4月に開くアニメーター育成塾のカリキュラムを監修し、受講生の生活費と授業料を負担する。卒業生はネットフリックスの独自アニメの制作にあたる。アニメ業界は人材不足が課題。長い目で作品づくりの環境を強化する。
(中略)
卒業生はウィットスタジオか同じグループのプロダクション・アイジー(東京都武蔵野市)でネットフリックスの独自アニメを中心に動画の業務にあたる。プログラムは継続的に提供できるようネットフリックスは複数年にわたって支援する予定。教育分野を広げていくことも見据える。

支援自体も、即戦力を求めるのではなく、数年スパンで面倒を見るらしいので、そこに期待。半年のカリキュラムで10人ほどのようですが、その後の継続部分と、挫折した人に学費と生活費の返還を求めるのか、そういう部分は気になりますが。記事だけでは、ちょっと解らないですね。良くも悪くも才能の世界、そう簡単に一流アニメーターは出てこないでしょうけれど、期待したいです。

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■自己改革できない業界■

自分が中学生や高校生だった頃、アニメブームで友人達とアニメージュやアニメディア、ニュータイプなどのアニメ雑誌を買って交換し、貪り読んだものですが。その頃から著名なアニメーター達が、このままではアニメが滅びるという警告を発していました。あれから30年以上、10年前にも20年前にも同じような警句は発せられていましたが。日本のアニメは、とりあえず滅びていません。

危機感ばかり表明して、状況が30年以上変わっていないということは、本当は危機ではないのか、あるいは中の人たちがそれを変えようという気がさらさらない、としか判断できませんね。アニメの制作本数はその頃よりもはるかに増え、むしろ市場公開希望なども増えていますし。昔と違って関連グッズの制作販売や、ネットでの動画配信サービスなど、収入の道は増えているのに……。

以前のノートでも取り上げましたが、1989年に手塚治虫先生が亡くなった時、宮崎駿監督が追悼そっちのけで手塚批判を繰り広げて、それが長らく定説になってしまっていましたが。それが正確ではないということは、各方面から指摘されています。宮崎監督のこの手塚批判も、先輩の大塚康生氏の受け売りである可能性が高いようですが。なお宮崎駿監督は、キッチリ儲かっています。後輩のためには、儲かるのは良いことです。

■日本国内での動き■

アニメ界に限らず、日本の映画業界自体が、他力本願と言うかタカリ体質と言うか。自分たちで内部構造を変革し、理想とする働く環境を構築しようという意識に欠けるような側面が、あるのでしょうか。その問題点に関しては、これまた以前にnoteで批判しましたが。宮崎駿監督も批判ばかりして、けっきょくは高畑勲監督によるやりたい放題で経費がかさみ、スタジオジブリはスタッフの社員制度を断念せざるを得なくなったわけで。

もちろん日本のアニメスタジオも、手をこまねいているわけではなく。例えば京都アニメーションや富山県のPAワークスなどが、地道な人材育成にも取り組んでいます。両スタジオが、アニメ制作の中心である東京在住のスタジオではなく、地方のスタジオというのが、非常に象徴的です。東京はやはり生活費が高く、家賃や食費だけでもかなりの生活費を圧迫しますから。

残念ながらアニメーターは、日本全体に4500人から6000人ほどしかいない、才能の世界です。100mを10秒台で走る能力のようなものです。その貴重な人材を、たった一人の狂人が30数人も死に至らしめ、失わせるという悲しい出来事もありましたが。京都アニメーションはまた人材育成を再開し始めたようですし、その点には感謝と敬意を表したいです。地方自治体のアニメスタジオ誘致など、期待したいですね。

■二軍に高年俸は出せない■

元アニメーターの漫画家の、宮尾岳先生が指摘されていましたが、アニメーターは上手かろうが下手だろうが、同じ単価になってしまう構造的な問題があります。上手いアニメーターに1.5倍の賃金を払えば、下手なアニメーターは半額になってしまう。これでは食べていけません。しかし思うのですが、落語家の前座・二つ目・真打制度ではないですが、実力による単価の差は、つけざるを得ないのではないでしょうか?

また、才能と適性がない人は淘汰されるのは世の常。アニメーターの貧乏話がよく記事になりますが、プロ野球の二軍選手が一軍のスーパースターと同じ年俸がもらえるはずもなく。それでも日本の二軍選手はまだ恵まれているほうで、アメリカだとメジャーリーグの下に3A・2A・1A・ルーキーリーグとあり、下のリーグはハンバーガーリーグと呼ばれるほど、貧乏が当たり前ですからね。

知り合いのアニメーターが、ちゃんと結婚して子供二人を大学や専門学校にやっている姿を見るに、経験のない新人の低賃金をあげつらって、貧乏な商売と喧伝する行為自体にも、個人的には疑問に思ったりします。全員が才能あるはずもなく、淘汰されるべき人間に十分な賃金がいかないのは当たり前。落語家だって前座は、赤貧洗うが如しですからね。漫画家だって、人気がなければ収入ゼロで、アルバイトをしながらが当たり前ですから。

■Netflix の問題点■

岡田斗司夫氏が指摘していますが、Netflix による独自アニメ制作自体は、アメリカのディズニー社などの手法を日本に持ち込んでいるため、結果的にあまり良い作品ができない構造があるようです。一言で言えば権利関係をNetflixが全部持っていくため、制作費は確かに良いのだけれど、トータルで見るとアニメスタジオの実入りがそうでもないらしいのです。漫画家で言えば原稿料は他社の3倍だけど、印税がゼロのようなもの。

このような条件だと、制作費に惹かれて仕事は受けるけれど、例えば DVD やブルーレイの売り上げ、関連グッズの売り上げで莫大な儲けが出ることが期待されるような、とっておきのネタを提供するかと言われれば、それは無理だよねという岡田斗司夫氏の指摘。ごもっともです。なぎら健壱さんが『およげたいやきくん』のB面の歌を歌ったのに、買取方式にしたためにほとんど儲からなかったのと同じですね。

岡田斗司夫氏は、Netflixがアメリカの方式を改めて日本のアニメスタジオに権利をある程度は認めるか、自社でスタジオを持って制作するかしかないだろうと、指摘されていました。この動きが最終的に、Netflixによるディズニースタジオへの道になるとしたら、それはそれで歓迎されるのではないでしょうか? きちんと投資して、しっかり回収する筋道が立てられるのなら、Amazon や Apple も真似するでしょうから。

■育成方法の課題■

アニメーション自体は日本が誇る文化になりましたが、日本のアニメの影響を受けた若い外国のアニメーターが、どんどんハイレベルの作品作りをしている状況があります。元アニメーターの友人などに話を聞いても、そもそもの育成システムがダメダメだという指摘もあります。生き残った一流アニメーター達は、もともとが天才なので、才能のない人間を育てるノウハウがないのだと。

実際、自分が大学の講義の放課後に、ボランティア的にパスの技術を教えた生徒が、アニメの専門学校で2年間学んだ人間よりも、即戦力としてスタジオで評価されたという現実があります。プロ野球のトレーニング方法も、経験論と根性論がまかり通っていた時代から、科学的なトレーニング方法を取り入れた福岡ソフトバンクホークスが、成果を出しています。これはダルビッシュ有投手も、高く評価しているところではありますが。

育成システムと並んで、教授方法とそのカリキュラムについても、根本から見直して、この貴重な日本文化の100年後のために、知恵を集めるべきなのでしょうね。それこそ、本郷高校の人材育成メソッドを、アニメーターや漫画家になった人たちが持ち寄って、最強のメソッドを作るべき時期なのかもしれません。アニメーターでもあり、漫画家の秋本治先生などが音頭を取れば、可能だと思うのですが。
どっとはらい


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