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『セクシー田中さん』調査報告書

◉日本テレビから、『セクシー田中さん』問題の報告書が、公開されました。あまりに遅いので、ほとぼりが覚めるのを待ってるだけでは……と疑いましたが、内容は90ページにも渡る詳細なもので、その点はコチラの邪推でした。すいませんm(_ _)m 内容はかなり詳細で、正直斜め読みでも読み切れていません。ですが、内容的にはいただけない部分や、日本テレビの体質が垣間見え、不愉快ですね。

【「セクシー田中さん」 調査報告書(公表版) 】日本テレビ

令和 6 年(2024 年)5 月 31 日
日本テレビ放送網株式会社
ドラマ「セクシー田中さん」社内特別調査チーム

日本テレビ放送網株式会社
ドラマ「セクシー田中さん」社内特別調査チーム
委員/責任者 山 田 克 也
委員 早稲田 祐美子
委員 國 松 崇
委員 谷 田 哲 哉

本報告書は、ドラマ「セクシー田中さん」について、その報告を行うものである。

https://www.ntv.co.jp/info/pressrelease/pdf/20240531-2.pdf

ヘッダーはnoteのフォトギャラリーより、メイプル楓さんのイラストです。

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■組織が個人を押し潰す■

詳しくは、上記リンク先の全文を、ぜひお読みいただくとして。いちおう出版社勤務経験もある……というか本業は今でも編集者の自分としては、某新聞系出版社と高裁まで争った立場としては、なんとも身につまされるというか、思い当たることが多くて。フリーランスに大企業のエゴの皺寄せが来たという印象です。

https://ntv.co.jp/info/pressrelease/pdf/20240531-2.pdf
セクシー田中さん問題の調査報告書(PDF)を読みました
あくまで日本テレビ側からの視点ですが
よくぞここまでと思うくらい詳細に経緯がわかります
スタートから日本テレビ側と小学館側がそれぞれ自分に都合よく解釈するボタンのかけ違いがあったとは言え
一番の問題点はA氏(チーフプロデューサー?)が原作者の強い思いと小学館側の強固な姿勢に気づいてからも
それをストレートに脚本家に伝えることから逃げ続けたことだと感じました

https://x.com/PPPppppppQQQ/status/1796502254956253361

的確なまとめに思えます。これに付け加えるならば、脚本家側の、コンプレックスを拗らせた傲慢な態度と、それを形成した脚本家文化が背景あるように感じました。もし、そんなものは無いと言うなら、映画芸術発行人の荒井晴彦氏の、自作の脚本の変更は許さないクセに絲山秋子先生を訴える矛盾や、アニメへの見下しについて、説明してからにしていただければ、助かります。この件に関しては、日本シナリオ作家協会の黒沢久子会長の発言が、酷かったです。興味がある方は、コチラのnoteをどうぞ。

自分も大好きな作品を書かれる、有能な脚本家もいますが。小説・漫画・アニメ・ゲームなどのクリエイターって、総計でシナリオライターの10倍以上はいる感じなので、そもそも分母が違うンですよね。脚本家が小説家や漫画家の2倍才能があっても、傑作の本数に5倍の差が出てしまう訳で。それでも、テレビ局はまだしも脚本家にチャンスを与えてる方だと思います。脚本家も、仕事をもらっている立場。なので、原作や原作者に八つ当たりしているわけで。

■守るべき一線への認識■

そもそも日本テレビや毎日新聞などのマスコミは、京都アニメーション放火殺人事件のときは、国民の知る権利とかを楯に、遺族が嫌がっても実名報道したのに。自社の不祥事だと全員匿名とか、ふざけていますね。これは、マスコミが何度もやってることですが。

いちおう自分は、作品作りの進行の中で、原作を改変することがあるというのは、否定はしないんですよ。自分の作品だって、変えられることはありますが、それでより良くなることはありますし、意図を違えられることもあります。でも編集者の経験もあるので、そもそも、小説と漫画、漫画とアニメ、アニメと実写ドラマや映画は、表現が異なる部分はありますから、そこは換骨奪胎せねばならない部分はありますから。でも、漫画原作も、影であらすじ屋――つまり原作者はストーリーの骨格だけを作って、肉付けは漫画家と編集者がやる、と侮蔑を込めて呼ぶ編集が今も居て。

梶原一騎先生が強面だったのは、そうしないと作品を好き勝手に改変され、ズタズタにされてしまうからって面もあったからではないかと。ただ、梶原先生は句読点の位置さえ変えるなという方だったのですが、同時に漫画家の演出にはいっさい口出しせず、漫画家と打ち合わせしない作品もしばしばあったとか。そこは、ちゃんと線引はあったわけで。芦原妃名子先生も、事細かに口出しするような「難しい作家」ではなく、ちゃんと線引を示していたのに、小学館側が伝え方が甘く、プロデューサーが漫画原作側を舐めていた、という姿が浮かび上がってきます。

■このままでは変わらず■

原作改悪ドラマとして話題になった、『『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズの三上延先生も、この件で心を痛めた一人のようで。X(旧Twitter)に、こんなポストをされていました。

日テレの報告書を読んだ。自分に起こった過去の諸々が思い出されて、読み進めるだけで手足が冷たくなるような内容だった。
できるだけ感情を排して結論を書くと、私たちにはまるで意味のない調査である。

https://x.com/mikamien/status/1796680459277291962

日テレの報告書は、自分たちが批判をかわして、今後も今の制作体制を維持することに腐心する、非常に保身的なものを感じました。プロデューサーが、撮影が終わっていると嘘まで付いて、強引に脚本通りの製作を維持しようとした点など、まさに噴飯もの。ただ、プロデューサーはプロデューサーで、原作の内容にまで「イメージと違うからその場面はやれない」と言ってくるタレントや事務所に忖度し、右往左往するサラリーマンでしかないですから。ただ、プロデューサーはかばってくれる組織がありますが、芦原妃名子先生は非力な個人です。プロデューサーの立場は理解できても、免罪は出来ないでしょう。

テレビドラマは『原作者の接待』が目的ではないし、それは作家側も当然わかってる。だから『これ別に俺の作品でなくてもいいよな』と思えたら断る選択肢が欲しいとこだが、編集部としては『テレビドラマ化』は損失のないボーナスなので『作家を丸め込んででも』成功させたい。
その温度差が不幸の源。

https://x.com/zuboc/status/1796582396068037033

こちらの、安永航一郎先生の指摘が正鵠ですね。出版社側としては、アニメ化やドラマ化されれば、それがどんな駄作でも、原作が売れるんですよね。持ち込み企画でない限り、多額の出費もなく、美味しい。だから、テレビ局との関係は大切ですし、無理も呑む。で、けっきょく個人事業主の漫画家に、ツケが回る。今回の件、一番近くにいた担当編集者の証言が出てこず、小学館の社員がドヤコヤ言い出した時点で、担当の力不足か、会社に箝口令を出されて沈黙しているか、どちらかだろうなと推測はつきます。

■作家側の意見アレコレ■

他の作家さんの意見も、紹介しますね。

原作者の真っ当な権利であるはずの意思表示を「難しい人(原作へのこだわりが強い人)」呼ばわりというのが一番ショックだった
原作サイドからしたらドラマサイドの方こそ「難しい人達(自分達の改変を面白い・正しい・適切だと根拠なく思い込んでる厄介な人達)」では、と

https://x.com/ktos_tw/status/1796508888210317393

報告書の中で、原作者に対して「難しい人」という表現を出版社側の人も使っている点がね、ほんとやるせない

https://x.com/ktos_tw/status/1796586729652224259

芦原妃名子先生は、難しい人ではなく。むしろ、かなりの常識人ですし、制作者側の事情もわかった上で、でもこのラインだけは守ってほしいと、ごくごく常識的なことを言っているに過ぎません。非常識な漫画家なんて、もっと支離滅裂で無茶なことを言ってきますから(オイオイ)。弓月光先生のツッコミが秀逸です。

その「難しい作家」を選んだのはTV局だろうが。
作品内容をちゃんと見て、打ち合わせでお相手がどう言うひととなりであるか?わからんかったの?難しいと思えば企画のやり直しだって出来るんだし。
安直に(どううにかなるだろう)で突き進めて作家を追い込んだ事への反省ちゃんとしていますか?

https://x.com/h_yuzuki/status/1796789807865368835

たぶんこの件は、ほとんど現状を変えることなく、また同じことが繰り返される気がします。

■個人的な提案と提言を■

批判だけしても、荻上チキ氏と同じですから、建設的な提案を。まず、出版社と作家の契約は、必ず出版社側から提示すること、それがなかった場合は優越的地位の濫用ということで、出版社側に責任を問う形にすること。同様に、テレビ局と出版社の契約も、同じです。というか、この優越的地位の濫用の概念が曖昧だから、自分なども某出版社から原稿料を踏み倒されそうになったときに、作家と出版社は対等の立場だとアホな地裁の裁判官に認定されてしまって、高裁まで争う事になってしまったわけで。

中小企業に価格転嫁させない岸田政権なら、個人事業主の弱い立場を理解し、もっと守る法整備を願いたいです。クールジャパンを基幹産業にするなら、希少なクリエイターの才能を蔑ろにしてはいけません。極端な話、各出版社に原稿料の相場(デビュー年数とキャリアによって払う各指標)を出さえ、社員の給料アップと連動させないと、30年前と原稿料の相場が同じなんて、アホなことになってしまうわけです。まぁ、これはそのうち、作家が個人出版社を立ち上げて、出版社は下請けになる未来もあるので、不要かもですが。

作家の側も、何かあったら弁護士に相談し、世論に訴え、輿論を喚起する時代になりつつあります。もちろん、破滅型芸人のような、メチャクチャな人もいますが、そういう人もまた、常識的な対応が求められる時代へ。それで作家が萎縮して小さくまとまるのは良くないという意見はわかりますが、その作家な本当に優れた才能があるなら、それこそ自分で個人出版社となって、作品を出せる時代ですし。本作り自体は、編プロに委託したり、優秀なマネージャーを雇えばなんとかなります。具体的な方法論は、MANZEMIのマガジンで何度か書いていますので、興味がある方はどうぞm(_ _)m


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