Netflix『浅草キッド』は傑作
◉タイトルで結論を書いてしまっていますが。12月9日よりNetflixでの配信が始まった劇団ひとり監督の『浅草キッド』ですが。なんだかんだで、もう4回目の鑑賞が終わりました。傑作です。去年も今年も、コロナ禍で映画はあまり観れていませんが、本年度ベスト級の逸品です。もう、オープニングからエンディングまで、ムダなシーンがひとつも無く、一気に観させてくれます。123分が、あっという間でした。
【【インタビュー】劇団ひとり、「浅草キッド」映画化への使命感 ビートたけしの反応はどうだった?】映画.com
「『浅草キッド』は僕が作んなくちゃいけないんだって、勝手に使命感を感じていました」。そう語るのは、幼少期からビートたけしに憧れてきた男・劇団ひとり。脚本・監督を務め、ビートたけし誕生にまつわる物語を描いた「浅草キッド」が、12月9日からNetflixで独占配信された。「たけしさんへの思い、原作への思い、それから映画的なスキルと脚本を含めたら、自分以外に適任はいないだろうっていう勘違いから始まっています」。淡々としたトーンだが、劇団ひとり監督から出てくる言葉はどれも熱い。映画化までの道のり、撮影の裏側を聞いた。
ヘッダーの写真は、Netflixのスクリーンショットより。
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■最高の配役と演技■
表向きは、天才漫才師ビートたけしの若き日の自伝的作品の、映画化なんですが。これは、最後の浅草芸人と呼ばれた深見千三郎の物語でもあります。それを、大泉洋が熱演しています。柳楽優弥の、ただの素人の青年が、師匠の薫陶を受けて、芸人になっていく様が、リアルタイムで描かれるドキュメンタリーのようでもあり。天才少年と評された柳楽優弥だからこそ、演じられる凄みというか。
他の配役も、とにかく役者がベストチョイス。上手い役者を揃えつつ、本業でない役者も、実に役柄にはまって、自然なんですよ。ビートきよし役のナイツ土屋とか、途中まで気付きませんでしたから。門脇麦や鈴木保奈美といった女性陣の配役も絶妙で。ストリッパー役でも、キッチリ芸を見せる部分が、監督の拘りなんでしょう。役者はその分、大変だったでしょうけれど。アメリカの映画では、それが普通。
■心をえぐる芸人論■
本作、深見千三郎の発する言葉の数々が、一介の三流物書きですら、ビシビシ刺さります。実際に、師匠から薫陶を受けた数々の言葉ですし、数多くの一流芸人を育てた人間の持つ、説得力。若手芸人とか単純に「感動した、泣けた」で済ませて良い作品ではなく。おまえは人に見せて銭が取れる芸があるのか、問われる訳で。部室芸の笑いやら、漫才ができない漫才師とか、この作品を見てどう思うのか。
知り合いの落語家が『タイガー&ドラゴン』を観て、西田敏行さんの演じる落語家・林屋亭どん兵衛を見て、これ以上の芸を持つ落語家が、何人いるかと苦悩していたわけで。そりゃあ、大河ドラマの主演を何度もやった、超がつく一流の役者ですから。志ん朝・談志・小三治レベルでないと、「さすが本職は違う」とはなりません。。それは、『昭和元禄落語心中』の一流声優の話芸にしても同じ。
■郷愁ではなく問い■
大泉洋は、同じく劇団ひとり監督の映画『青天の霹靂』でも、プロ並みのマジックを披露するほど、芸達者な人物。それが本作でも、タップダンスを披露しています。それは、ビートたけし役の柳楽優弥も同じ。役者が芸人を演じ、その芸もレベルが高いので、圧倒的な説得力を見せるわけで。自分なんか、おまえが商業プロと胸を張れる芸があるのかと、問われた気がして胸が苦しくなる部分も。
歌手志望だったストリッパーの、これぐらいの歌の上手さならイッパイいるという自嘲も、本当に切なくて。努力すれば夢が叶う世界じゃないですからね。作品の感動具合も素晴らしかったのですが、単に昭和の芸人の世界や、徒弟制度の良さを懐かしむ、ノスタルジックな作品ではなく。一芸で身を立てようって人間に、問いかける作品です。深見千三郎は最後は野垂れ死にに近かったのですから。
■徒弟制度と独学と■
自分は、武道や格闘技方面では徒弟制度を幾つか経験していますし、逆に作話についてはほぼ独学です。大学や専門学校で教えていたDTPに関しても、そう。なので、徒弟制度の良い部分も悪い部分も、両方知っています。破門した弟子を他人が批判したら怒る師匠という、徒弟関係の複雑な心情も、本作では描かれていますが。実際は、深見千三郎師匠も、酔うと乱れることが悲しかったと、たけしさん本人も書いていますし。
実父の北野菊次郎も酒乱の部分があったわけで。けっきょく、深見師匠の弟子の多くは、師匠の教えに反してテレビで売れたわけで。ある意味で、師弟は親子関係以上の面はあるわけで。立川談志と柳家小さんの関係がそうであったように。この映画は、原作本と併せて、本当にイロイロと考えさせられます。映画としても本当に傑作で、Netflixに入ってて、良かったなと。
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