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《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第66話

六月二十一日(金)

 市役所の人たちが来た。

 そうだ。モグラの死を理由に追い返しておいて、自分から市役所に行ったんだ。市役所も私と話をしていい。そう判断したんだろう。と思ったら、カピバラ市ではなく横浜市だった。

「横浜市交通局のものです。こちらは、JR東日本、JR東海、相鉄線つまり相模鉄道の職員と、トラ急電鉄の職員です。」と、おっしゃった。

 続けて、トラ急電鉄の職員が喋り出した。

「トキさん、この度の塩害による被害、大変でしたね。心身ともにお疲れでしょうが、私たちの計画についてお話しをする時間をくれませんか。」

 きゅっと上がった口角でこちらが自然と笑顔になってしまうような人だ。

「私たちは、ここ、イグアナ地区に新しくターミナル駅を作る計画を立てています。」

 肌が白く、小さな丸顔で羨ましく感じる。しばし見惚れていた。え。なんだって、「もう一度言ってください。」と言った。

「ここイグアナ地区に、トラ急小田原線とこれから新しく建設予定の仮称トラ急カピバラ線、その二路線のターミナル駅を建設したいんです。」 

 どういうことだ。今は、カピバラ駅の再開発について議論がなされ、市長選の一つの争点となっているし、カピバラ駅から鶴巻温泉駅の間にも車両の総合点検場ができる。そこにはスマート改札の新しい駅ができるという噂だ。駅ばかりになってしまう。それならば、カピバラ駅をそのまま改築すればいいはずだ。

「トキさん、その通りです。これには理由が3つほどあります。
 それは、
 ホームの数が増えること。
 電車は急に曲がれないこと。
 電車は急に登れないことです。」

 なんだか幼き頃に教わった交通安全の標語みたいだなと思った。

 それと、あれだ。

 この人は、今SNSで人気の鳥、シマエナガに似ているんだ。

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