《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第38話
四月二十二日(月)
割れんばかりの拍手と歓声!ヒューという大音量の指笛!
パンッ!と画面いっぱいにクラッカーから紙吹雪が舞う!
ドン!という和太鼓の音に合わせて、
「こーぷんかー!モグラチャンネルです。ヨロシクオネガイシマース!」
デデン。
「今日は日本遺産である神奈川県カピバラ市ゾウ山にやってきました!
パチパチパチパチー!」
と、早口でモグラがしゃべっている。
いきなり大音量で始まるもんだから慌ててスマホの音量を下げた。
モグラの後ろで画面に見切れているタイ人カップルは、なんだこいつは。といったように目を丸くしてモグラを眺めているので、心配になって倍速で再生する。
「豆腐を作っていろんな料理で食べてみた!」とか、
「ちょんまげのカツラをかぶって江戸っ子気分になってみた!」とか、
「伝統工芸のコマを回して対決してみた!」とか、
「神社の脇にある湧水でお茶を淹れてみた!」とか、
「境内から関東平野を見渡してみた!」とか、
ありがたいことにいろんな企画にタイ人カップルは参加してくれており、だんだんと笑顔になっていくのがおもしろい。
タイ人の去った部屋の掃除中に、モグラから動画投稿サイト「レトリーブ」のリンクが送られてきたから見てしまった。
リンクと一緒に、富士山をバックにした五重塔の写真も送られてきている。
今日、モグラはタイ人カップルと山梨県にいるようだ。
訪日観光客ガイド系レトリーバーが新しい肩書きか。
ガイドなら正確な情報を伝えてほしい。
境内から見渡せるのは関東平野ではなく、相模平野までのハズだ。
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