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ピエール・フルニエのCDに使われたマティスを追いかける

 読書のBGMにクラシックを流していたら、ピエール・フルニエのバッハ『無伴奏チェロ組曲』が流れてきて、思わずそちらに意識を持っていかれた。

 PCに読み込み、iTunesでランダムに再生されるので、いつも流れてくる曲には新鮮な驚きがあるのだけど、数年ぶりに聴いたフルニエの音には新鮮な揺らぎがあって、ちょっと演歌のような?貯めがあって、聴き惚れてしまった。

 たまさか読んでいた本が堀江敏幸初の音楽エッセイ集『音の糸』で、音楽に対するセンチメンタルな思いが高まっていたことも琴線に触れた一因なのかもしれない。

 アンドレ・ナヴァラのことを書いた一節に、彼が国立音楽院の教師になったのは、フルニエの跡を襲ってのことだった、と書かれていた。

 「跡を襲う」と表記するところがいかにも堀江敏幸らしいと言うか、ちゃんとしている感じがするのだけど、襲うは別に襲いかかるわけではなく、襲名するということなのであるから、どうということはない普通の用法ではあるけれど、滅多に見なくなったなぁという感慨がそこにはあった。

 ナヴァラについては寡聞にして知らず、買いやすいものがあれば聴いてみようかという気持ちになったので検索してみると、ちょうど良さそうなバッハの演奏集が見つかった。

 ずいぶん話がそれてしまったけれど、フルニエの話で一番語りたかったことはCDのジャケットの話で、マティスの版画と思しき青い人体が妙に記憶を刺激するのだ。

 マティスの版画と言えば「Jazz」が有名だと思うし、好きなのだけど、「Jazz」のシリーズではないだろうなとは思う。これ、クラシックのアルバムだし。よく似た青いヌード(Blue Nude)という連作も検索すればすぐ出てくるのだけど、この立ち姿のものが一連のものなのかどうか判然としない。

 結局調べていったらHenri Matisse『Nu Bleu X』というのが作品名のようで、青いヌードのシリーズの10番目ということにたどり着いた。ググればなんでも出てくる時代とはいえ、意外とたどり着くまでに時間がかかったのが新鮮。マティスと言えば超有名な画家でもある訳だし、どこぞの美術館のページでも出てくるかと思ったのだが、そうすんなりは出てこなかった。むしろこの版画を販売している画廊のようなサイトが多く、ネット販売という形式で整理された情報が検索上位にヒットしてくるという、Googleさんの限界みたいなものも感じるのだった。

 マティスには画家のノートという本があって、いつか読もうと思って積んでいる。いよいよ、読み時なのかもしれない、日常と積読が交差する、そういう瞬間が面白い。


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