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色ぬり散歩のすすめ

私たちは移動する時、目的地があることが多い。毎日仕事場という目的地に向かって通勤するし、休日だってインスタで見たお洒落なカフェに向かって遊びに出かける。運動不足解消のための散歩やジョギングもある程度慣れ親しんだルートを使うことが多いかと思う。決まった道は人に安心感を与え、目的のための最短距離は無駄な時間を省いてくれる。しかし安心と効率は、時として人を退屈にさせる。

今回はそんな退屈さを解消するための、新しい遊びを紹介したい。

「今、この瞬間を見失わない人こそ、本当に幸せな人です」
 ヘンリー・ソロー

先日コンビニで立ち読みしていたところ、『よりみちノート』という商品が雑誌で紹介されていた。オズマガジンとトラベラーズファクトリーが作成したこの商品は、見開きの左ページに編集部が選んだ特定の地域の地図、右ページがその地域に実際に行った時の思い出をイラストや文章で自由に書き込めるよう白紙になっている。散歩が楽しくなる可愛らしい商品だが、絵や文章が上手くないと、見返した時に楽しく思えないかもしれないという謎の強迫観念に襲われた。これはおそらく私の性格の問題なのだが。

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もっとシンプルに散歩を楽しむ方法はないだろうか。そんな時にたまたま本屋でマップルの地図を手に取った。

マップルは昭文社が出している紙の地図のことで、カーナビが今ほど普及していない時代には『スーパーマップル』とよばれる分厚めの冊子が実家の車には置かれていた。この地図を見ながら父と母が喧嘩しているのを、後部座席から妹と見ていたのを思い出す。

私が手に取ったのは市や区ごとに区切られた「都市地図シリーズ」で、自分の住む地域の地図を選んだ。引っ越してきたばかりで、この地域のことをもっと知りたいという欲求がどこかあったのかもしれない。

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紙のケースに折り畳んで収められていた地図を広げると、あることに気がついた。表面はカラーの地図があるのだが、裏面に同じ地図のモノクロ版が印刷されているのだ。これを見て、私はある衝動に駆られてしまった。

「この地図に色を塗りたい…」

その場ですぐに地図を買うと、足早に家に戻り、今まで歩いたことのある道を色鉛筆で塗り始めた。これがめっぽう楽しい。Google mapを見返したりはせず、地図を見ながら歩いた道の記憶を思い出す。バスや車で通った道は対象外で、自転車や徒歩で通った道に限定した。どこを歩いたか地図を見ながら思い出す作業は楽しく、色を塗る箇所が増える度に自分の陣地が増えるような感覚も面白かった。

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色を塗り始めてからというもの、普段の散歩の仕方にも変化が現れた。今まで歩いた道ではなく、あえて一本隣の道を歩いたり、ぐるっと遠回りをして歩いてみるようになった。それは思いがけず新しく開店したお店や、珍しい名前の家の標識、綺麗に咲く道端の花と出会えたりもする。
新しい発見に私はワクワクさせられた。

次第に地図を見ながら次回の散歩道の予定を立てたり、昨日歩いた道のすぐ横の道が以前通ったことのある道であることに気がついたりもする。町の名前や近所の小中学校の数、県境で自分の住む地域の範囲を知ることもできる。そういった近所の、近所の人にしか必要のない情報の蓄積が、しばらくすると地域への帰属意識、ここに住む市民の1人であることの自覚のようなものを持つようになっていった。

昨今、キャンプやサウナといった人間性を取り戻す遊びが人気になっている。散歩という余白を生み出し、自分の住んでいる町を良く知る。これもまた一つの人間性を取り戻す行為だと思う。

地元の本屋に行けば、1,000円ちょっとで自分の住む町の地図を買うことができる。遠出がし辛いこの時代に、自分の住む町に目を向けてはどうだろうか。

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