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ショートショート

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シロクマ文芸部に参加して書いたショートショートや、単発で書いたショートショートです。 ※ すべてフィクション ※ ジャンルはごちゃまぜ ※ 一話完結です。ショートショート同士の繋…
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2024年2月の記事一覧

また4年後に、 #シロクマ文芸部

 閏年にしか開かない扉があるという噂を男が聞いたのは、偶然であり幸運だった。  都市伝説やオカルトを題材としたブログを細々と書いている男にとって、ちょうどいいネタだった。  調査を始めると、意外なことにその扉はいつも男が利用している図書館にあるという。真相を探るべく、図書館へと足を運んだ。  しかし図書館へ来たものの、いきなり噂のある扉について聞いたりして教えてくれるだろうか。図書館員は知っているのか。信じてもらえるのか。  本を探すフリをしながらブラブラと館内を歩いている

香りの虜 #シロクマ文芸部

 梅の花の香りは人を惑わせる――  夢を見た。  景色はどこまでも白だった。足に伝わってくる感触も、土なのか板なのか、それともコンクリートか、それさえもわからない。  ただ、どこからか甘い香りが漂っている。  方向もわからないままに、それでも甘い香りに導かれるように歩を進めていくと一本の木が見えた。淡いピンクの花に飾られている。梅の木だ。詳しくもないのに直感的に思う。  思わずうっとりとしてしまう香りを、目を閉じて深く吸い込む。  目を覚ましても、まだ夢の余韻に浸っていた

味のしないチョコレート #シロクマ文芸部

 チョコレートが好きだ。  子どもの頃から、ずっと。  小学校の遠足のお菓子にはもちろん持って行ったし、高校時代はこっそりカバンに忍ばせた。  部活や勉強の合間に食べるチョコレートは、特別なものを食べている気分にもなった。  社会人になれば通勤カバンの中と、会社のデスクに常備した。  遊びに行くときだって、いつもチョコレートを持ち歩いていた。  嫌なことがあったときには少し苦く感じたこともあるけれど、そのあとには元気が出た。  良いことがあったときには、嬉しさも美味しさも

重なる青写真 #シロクマ文芸部

 青写真を描けと言われても困る。  中小企業どころか、弱小企業だ。  けれど、そんなところが僕は気に入ってさえいる。  僕には野心などない。このままでいいし、このままがいい。  だから、社長が新しいプロジェクトを突然発表したときには驚いた。  大企業と提携して宇宙開発に参入すると言う。  そして、あろうことか僕にそのプロジェクトの青写真を描けと命じたのだ。  なぜ僕なのか。取り消してくれと言いたいが、弱小といえど社長は社長。  職を失いたくはない。  うまくいけば、収入が