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#01:本屋で大喜利

(新コーナーのタイトルは『そんなん 知らんがな』にしました。よろしくおねがいします~)

街から本屋がどんどん姿を消している。
まだ私が子育て新米だったころ、20年近く前になるが、近所に何軒か本屋があって、そこは最高の避難所だった。家にいてもテレビを観る時間はないし、周りを見れば家事のやり残しがたくさんあってうんざりするばかり。新鮮な世界を求めたいが遠くに出かける気力は無いし、人出の多い場所は興味がない。すぐに行ける面白い場所として私のニーズを叶えてくれたのが本屋だった。
趣味の雑誌から文芸、実用書まで、目立つように置かれている本から今の流行りが分かったし、何気なく手に取る本で自分の心情を客観的に観察できるような気がして楽しかった。
赤ん坊が幼いと昼夜逆転は当たり前で、おとなしく眠ったわずかな時間に本に没頭することは何よりの贅沢に感じたものだ。

子どもの成長に合わせて、同じ区内で一度住まいを変えたが、「ここで暮らしたい」と心が決まったのは、すぐ近くにあるスーパーのテナントとして入っていたCDショップと書店によるものが大きい。
数年前、このスーパーが大型チェーン店のイオンに代わったのを機に、残念ながらCDショップが撤退したけれど、本屋も店を変えたがどうにか生き残ってくれてホッとした。

世の中はすっかりデジタル化に移行したが、私は作り手の気持ちを考えると、なかなか電子書籍に手を伸ばす気になれなかった。
ところが2年前、自分がKindleを出すのを決めた際に電子書籍用の端末を手に入れるとそれはそれで便利で楽しい。本を置ききれない書棚スペースに悩むことがなくなるし、ホコリも出ない。どんなに分厚い小説でも、端末ひとつですべてが収納できてしまう。
すっかり電子書籍で満足できるのかと思いきや、やはり、リアルな場所で得られる楽しさは何においても代えがたい。書店がチョイスした、客の好みとは全く関係ない陳列棚から受けるインスピレーションは一期一会のようなもので、デジタル書店に並ぶ『あなたへのおすすめ』なぞ到底敵わない。

つい先日のこと。
娘から推しのセンイルケーキを作るのを手伝って欲しいと言われ、材料を買いに一緒に近所のイオンに出かけた。
その日はたまたま時間があったので、一緒に本屋に立ち寄ることに。
並んでいる雑誌をパラパラとめくったり文芸コーナーの平置きを見たりしながら、最近若者に人気のある作家さんの話などを娘から聞いていた。
そこで娘が、ニヤリと笑いながら私の顔を見て、
「ねー。アレ…やらない?」
言った。
「え?」
「ほら…。いつものアレだよ。」
「え?何よ、いつものって…。」
私は娘が何をしたいのかさっぱり分からず、
「早く、何をしたいのか言ってちょーだい。」
と催促すると、
「分かんないのぉ?アレだよ…大喜利。」

「なーんだ、アレか…。」
私はすぐに分かった。

娘は文芸コーナーにある国内外の女性作家のスペースを指さして、
「ここに置いてありそうな(架空の)本のタイトルと、帯のコピーを出し合おうよ。」
と言った。
娘が大きくなると一緒に行動する機会はほとんどないが、たまに一緒に買い物に出かけたりすると、互いに適当なお題を出して大喜利を楽しみながら歩くのが定番だ。

「じゃあねぇ…。」
娘が陳列棚のある場所を指さして、
「ここに置いてありそうな本のタイトルと帯のコピーを考えよう。」
とお題を出した。彼女が指す先には、

どれもタイトルだけで、その内容の概ねが掴めるような本が置かれていた。小さな本屋なのに2~3冊同じ本が置かれていると目立つ。以前から、話題になってる本であることは知っていたが、今でも売れているのだろう。

さて…。じゃ、考えようか。
ここに置いてありそうな本ね…。
私はいつも通り、パッと思いついたことをそのまま口に出した。

本のタイトルはねぇ…『もうあなたを待つのをやめることにした
帯のコピーは…「自分の軸で生きていく! 誰かが近くにいなければ、貴方は幸せになれない?
私が言うと、娘は笑いながら「ありそ~!」と満足気。

喜ぶ娘に私は嬉しくなって、
「この棚の少し下に平置きしてありそうな本を言ってみる。」
と気分が盛り上がる。

全く売れない芸人だったのにYouTuberに転身したら大成功した人のエッセイ本(あくまでも架空)
本のタイトルはねぇ…『真っすぐだけが道じゃない!夢実現への向かい方 ~無名芸人が人気YouTuberになれた理由(わけ)~
帯のコピーは…「ボクには“諦めなければ叶う”は無理でした。風の時代に乗るための成功法則
とかどう?

お互いにいくつかネタを出し合っては「うひゃひゃ…」と笑ったところで娘が、
「じゃあ、ウチの家族のことを本に出すとしたら?」
と面白いお題をふっかけてきた。

これは超簡単だ。秒で出た。
本のタイトルはねぇ…『お気楽ご気楽赤裸々家族日記
帯のコピーは…「乗組員全員がお気楽主義の船がもし嵐に遭遇したら、船はそのまま沈むのか?説に挑む家族の物語

大爆笑。
「それにしてもタイトル長っ!」と娘。
「だって最近はさ、文章みたいなタイトルがウケている気がするんだもの。」
さんざん店内を巡って、結局、実際に購入したのは、親子でファンの瀬尾まいこさんの最新作だった、というのが最終的なオチである。

レジを終え、エレベーターに向かいながら娘がぽつり…。
「近くで本を並べていた店員さん、あの親子ヤバッ!って思ったかもね。」
「いやー。最後のお題の話を聞いて、きっと納得がいったはず。あー、こんな親子もいるのね、って。」
「そっか。」

リアル書店がないと、こういう楽しみ方はできない。
本屋の陳列はざっと店内を見渡すだけでもイマジネーションがどんどん湧いてくるから楽しい。
一人一台端末では小さな画面とにらめっこ。
五感を動かして楽しむことができる本屋がこれ以上減って欲しくないと思うのは、私だけだろうか。

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