見出し画像

わたしの性癖とこころ

「底なしの欲深さで泥汚くて、“汚い”って言葉じゃ軽いくらい誰よりも汚い部分があるという自覚があり、そしてかわいい女の子の皮を被って、かわいいかわいいされて、嬉しくなってこの汚物も愛してって見せたらドン引きされる、それがきみ。どう?当たってる?」
ああ、うん、当たっている。忘れていた。わたしの中は、汚い。
だけどわたしの周りの人たちはそんなことないよと否定してくれることも、わたしは知っている。何年も付き合いのあるあの子でさえ、きっと否定してくれる。
わたしがそれを伝えるときはいつだって言葉で綺麗にラッピングして渡すから。どれだけわたしのことを知ってほしくても、わたしは自分で「かわいいと思われたい」「嫌われたくない」から抜け出すことができない。どれだけ言葉を尽くそうと表面上のわたしはいつもかわいくて綺麗なまま。化けの皮は剥がれない。

ーーー

明日なんか来なくてよかった。もっと縛って、もっと痛くして、もっと沈めて、もっと頭をおかしくさせてほしかった。
わたしが自分を見失うところを、わたしがダメになるところを、わたしが落ちていくところを、しっかり見てて。わたしの汚い部分を見て、知って、ゴミだなって笑ってほしい。そしてその上でちゃんと、愛して。

自分を抑えられなくなる瞬間が、この人にはどうがんばっても敵わないと思う瞬間が、冷めた目で見下ろされる瞬間が、わたしの中の色々を信頼している相手に破壊される瞬間が、自分の気持ちも意志も全部奪われてしまう瞬間が、だいすきだった。
あなただけで満たしたいから、もっとわたしの中にあなたが入るように、わたしの中にあるものを奪ってほしい。わたしががんばって大事に注いできた水でさえ全部ぶち撒けてほしい。
今までわたしが大事にしてきたわたしの信条。わたしの首を締め続けるわたしの中の正義。しがみついて離れられない自尊心。不安も恐怖も一緒に。
強い力で、迷いなく、確実に、わたしを壊して。

大事にされたい。愛されたい。大事にしたい。愛したい。その思いが強すぎて、バランスが保てなくなったわたしの心。
愛されたいわたしは、殴られたい。可愛がられたいわたしは、蔑まれたい。大事にされたいわたしは、ゴミのように扱ってほしがる。そして欲しがりのわたしは、突き放されたかった。
そんなわたしを笑ってよ。わたしはこんなに汚くて、こんなに醜くて、こんなに欲に塗れた人間なのだから。

いい子だねと言われるたびに騙しているような気になるわたしも、かわいいねと褒められるたびにわたしの汚さを見せたくなるわたしも。
優しくて愛嬌があっていい子の皮を、化けの皮を、剥がされたかった。そして、剥き出しにされたわたしはもう取り繕う意味がなくなる。かわいい女の子のわたしは、もうかわいいわたしでいなくてよくなる。もう全てが、どうでもよくなる。
自尊心も信念も全部失い、建前と心の壁を破壊されることを望んでいた。
わたしはわたしを壊してほしい。殺してほしい。それは自分ではできないことだから。
だけどわたしは、それらを心底怖がっていた。今まで守ってきた自分の殻を壊すのは、怖い。剥き出しのわたしを見て、失望されるのが怖い。捨てられるのが怖い。嫌われるのが、怖い。
それでもわたしが強く望むのは、全部壊されて、殺されて、なんの役にも立たなくなったわたしをそれでも懲りずに愛してほしいから。そこには、なによりも深い愛があるような気がしているから。
愛情なしでは、絶対にできないことだから。

だから、わたしが嫌いなわたしを、嘘つきなわたしを、最低なわたしを、叱って罰して、慰めてほしい。
どれだけ抵抗しても敵わないと思わせてほしい。取り繕っても無駄だと思わせてほしい。 
愛をもって、それが愛だとわかるように、わたしを全力で殴って。

あなたの手のひらで踊っていたい。どれだけ掴もうと必死になっても指の間からするする抜けていくあなたを前に、わたしはもう静かに待っているしかない。
様子を伺いながら待ってる時間を。焦がれている時間を、わたしは至福だと感じるから。
何かを与えてもらうことでは満たされないわたしは、どこに行こうとなにをしていようと同じ関係性のままで、変わらずそこにいてくれる安心感で満たされた。

ーーー

本当は、痛いのも汚いのも苦しいのも、それ自体が好きなわけじゃない。
強い言葉を使われるのも、怒られるのも、強制されるのも、縛られるのも、突き放されるのも、言うことを聞くのも、負けることも、本当は好きじゃない。
だけど、わたしの信頼するあなたが、手を下してくれるなら。そして、あなたが喜んでくれるのなら。
絶対に絶対に普段のわたしなら良しとしないことも、普段のわたしなら全力で拒むことでも、わたしは喜んでそれらを受け入れる。喜んで、首を垂れる。
そういうわたしにさせられてしまう瞬間は、それらを喜んでしまう瞬間は、嫌なことをさせられても尚その相手にしがみつこうとしてしまう瞬間は。脳みそがどろどろに溶けて快楽に溺れる程に、どんな行為よりも気持ちいい瞬間だった。

だけどそんなこと、誰が引き受けてくれるんだろう。軽い気持ちで踏み込んだ誰かは、見た目に釣られて踏み込んだ誰かは、きっとその重さに耐えきれず潰れてしまう。
こんなに重いもの、誰が一緒に持ってくれるんだろう。
自分本位で、欲塗れで汚いわたしを、誰が叱って、奪って、抱きしめてくれるんだろう。
それは深い深い場所で繋がった関係。全てを手放して、全てを委ねてもいいと思える。そこでしか見せることができないわたしの姿。自分でも手の届かない深部。そこでしか満たされない心がある。

形だけの、痛いだけの支配なら要らないの。身体に傷を付けても、心までは届かない。全然、全く、届かない。
だけどこんなに自分の癖について考え尽くしてきたわたしも、暴力でしかわたしを支配できないのかと落胆したわたしも、自分が下に潜ることで上下関係をむりやり成り立たせていたわたしも、いまだに、一度も、ごっこ遊び以上のことをしたことがない。
誰かに委ねられたことは一度もない。
わたしが長い間踏み出せないのは、完全に委ねることができないのは、きっと臆病さゆえに信頼しきれないからなんだろう。
結婚よりもずっと重い覚悟を持ってくれないなら、壊しても戻せないなら、わたしの重さに耐え切れないなら、途中で投げ出すなら、わたしはわたしを任せられない。
そう思うわたしはだけど、なにも、なにひとつ、わかっていないんだろう。自分のことですらきっとわかってない。
そこに辿り着いた時の自分の姿をわたしはまだ見たことがない。それでも容易に想像できる。落ちたわたしは相手の思い通りになる。そんな無防備なわたしを、生かすも殺すも相手次第になる。絶対に抗えないという心の状態は、完全に心酔しているという心の状態は、わかるから。わたしはそこから自分で抜け出すことはできないだろう。だから絶対に、誰にでもはできなかった。

だから生きているうちに、ひとりでもそんな誰かを見つけられたならもうわたしは大満足だ。ひとりだって見つけられないかもしれないと思っているから。
そろそろもういい加減、そんな誰かを探しにいこう。わたしを、あなたを、見つけたいから。

この記事が参加している募集

熟成下書き

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?