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褒めるのは線と点、の話

先日、20歳の娘と東京に行ってきました。
目的は、毎年恒例の作品展が開催される
かつて通っていた中瀬幼稚園に遊びに行くため。
卒園の時に「20歳になったら集まりたいね!」と言っていたのを
実現しに行くため。

私の人生の中で、この幼稚園に子ども二人が通っていた5年間は
その後の私の人生に一番大きく影響を与えてくれました。
そしてここに一緒に通った保護者のみんなとの関係は
それまでの人生で関わったどの人たちとも違う
特別な信頼感で結ばれていると思っています。少なくとも私は!笑

いろんなことがあったなあ。
めちゃくちゃ楽しいことも面白いことも、
すごい辛いことも、大変なことも、
衝撃的な事件もたくさんあった。
なんなら私、最後の一年はPTA会長やってたしね。
でもポンコツすぎて、
大人になってあんなに怒られたことないってくらい怒られてた。笑
そして、半年で3人目を妊娠して退任したんだけど。笑

今回、お友達に会いに行ったのは5〜6年ぶりくらいだったけど、
幼稚園を訪れたのは多分10年ぶりくらいかも??
前回も作品展を観に来た気がする。

杉並区の住宅街の中にあるのが信じられないほど
広い敷地にそこだけ自然豊かな広場が現れる。
そして今でも、タイムスリップしたかと思うくらいに
園の風景は変わっていなくて、一歩足を踏み入れると
あの毎日通っていた日々が蘇り、懐かしさで涙が出てくるほど。

私達が通っていた時代に作られた木道が今もまだ綺麗

今もまだこの園に通っている子ども達や親たちは
毎日丁寧に庭や道具や教室を手入れしながら生活しているんだろうな
と感じられるような美しい空間がそのままに。

園舎もずっと13年前のまま、子どもたちの作る焚き火用の窯も美しい

今回、作品展を一緒に観に行こうとなった
当時の親友達(おやともだち)は5人。
その内ひとりは園に就職し、今も現役で働いている。
知らなかったけど、なんともう一人、当時の親友達が働いてるという驚き!

ただ寂しかったのは、娘の同級生はみんなそれぞれに事情があり来られず…
泊まらせてもらう友達宅でそこの息子くんとは会えたけど、
それ以外の子とは会えずじまい。残念…
同窓会にはならなかった〜涙
ただ、なんと年少時の担任の先生と偶然お会いできた!!!
先生も引っ越されて退任されていたので5年ぶりくらいに訪れたとのこと。
この再会にびっくり!!!しかも先生、まったく変わってない・・・!!!
娘は5歳児以来の再会なので先生は娘の成長に驚いてたけど。笑

井口佳子園長先生もまったく見た目も変わらずお元気で、びっくり!
もう70代も半ばくらいだと思うけど、
10年前から何も変わってないって、どういうこと?笑
そして私のことも覚えていてくださって、
本当に、子ども達と何十年も一緒に活動していらっしゃるのが
脳トレになっているんだろうなあ。その記憶力にも驚き。

住宅街のど真ん中なのに、広い!
こっちは15年前!

その佳子先生から毎日の子どもたちの活動を写した写真について
説明してくださるお話の時間があるということで
娘と一緒に聴くことができた。

私は第一子の娘を最初に通わせたこの幼稚園で
初対面の佳子先生の入園説明会のお話を聴いて、なんと泣いた。
そしてここに入園させたいと決めて、
それまで社宅でずっと妊娠時代から付き合っていた
他の同級生ママ達の7人くらいのコミュニティから飛び出し
我が家だけ、通園バスにみんなが乗せている時間に
娘と手を繋いで30分歩いて通わせることになった。
それまで毎日一緒に遊んでいたお友達とは一切遊ばなくなった。

その時の佳子先生のお話をまだ覚えている。

「うちの幼稚園には園バスはありません。
車での送迎も禁止です。
手を繋いで歩いてきてください。
大変だと思うかもしれませんが、子どもと手を繋いで歩ける時間は
人生の中でそんなに長くはありません。
まだ子育てし始めたばかりのあなた達は
幼稚園に入園してやっと手が離れると思っているかもしれませんが、
あっという間に子どもは手を繋いでくれなくなります。
まだ小さい子どもと手を繋いで、季節を感じながら
道端のお花や鳥や空を指差して歩く時間を楽しんでください。
自転車も早すぎます。子どもの歩くペースで歩いてきてください。」

私は、頭をかち割られた気がした。
涙が溢れて止まらなかった。
まさに、やっと幼稚園に入ってくれる!下の子との時間ができる!
さっさと朝早くバスに乗せて、のんびり家でお友達とお茶でもしよ〜。
とか、思ってたところだったから…。汗
幼稚園にやっと入ってくれる、と思っていた、
早く大きくなってほしいと思っていた一人目の子が
あっという間に大きくなって手を繋げなくなる未来を想像していなかった。
そこに気付かせてくれたこの幼稚園に通いたいと思った。

「幼稚園に子どもを預けて育ててもらえるなんて思わないでください。
お子さんを育てるのはあなた達です。幼稚園は一緒に育てる場所です。
預けるなんて意識は捨ててください。
幼稚園にお子さんがいる間も、できることは園にいて手伝ってください。
もちろん、延長保育なんてものはありません。
毎日14時にはちゃんと迎えに来てください。
帰りもなるべく寄り道をせず、家に帰って休ませてあげてください。
子ども達は園で思いっきり遊んで疲れています。
大人に付き合わせずまっすぐ帰ってください。」

なんて厳しいことを言うんだと思う反面、
本当にその通りだとも思った。
怒って帰る保護者もいたし、
あんな怖い園長のところ行きたくないという声も聞いた。
でも私は、この人からいろいろ学びたいと思った。
きっと、私は間違ってしまいそうだから。

そして二人の子どもを通わせた5年間、
本当にたくさんのことを教えていただいた。
子ども達をこの園に通わせることができた我が家は
本当にラッキーだと感謝した。
子ども達は毎日のびのびとただただ楽しい時間を過ごし
私達親もたくさんの経験をさせていただいた。
先生の子どもへの接し方、声の掛け方、目が離せなかった。
と、言いつつ本当に私は未熟者でズボラで
全然実践できてなかったんだけどね…
めちゃくちゃ怒られたしね…笑

そして今回、卒園以来13年ぶりに先生のお話が聴けた。
その時先生が解説していたのは泥粘土遊びをしている子ども達の写真。

『ものに手を出し、それが応えてくれることの喜びは、
子ども達の意欲を育てる。
泥粘土は幼い子達にとって、最高の遊び相手である。』

というキャプションが付いていた。
粘土でどんな素敵な形を作ったかについて触れていないのが印象的。
子ども達が作った粘土の作品は、
ただ積み上げたものに指の穴が空いていたり
ただベタベタと平たく伸ばしてあったり、
丸くしていたり長くしていたり。
何を作ったか、ではなく、どう楽しんだか、の記録という感じ。

佳子先生のお話の中で
「こんな自由な園でのびのび育っているから
こんな自由な絵が描けるんですか」
といろんな大人に聞かれるとあった。

「違うんですよ。
自由でダイナミックな絵が描けるというのは
自由な線が描けているということがあるからなんです。
私はまず、その子の描く線を見ます。
『あなたの線って素敵ね』
『とってもいい線が描けたね』
『力強い線だね』
自分の手から筆から生み出される線や点に自信がつくと、
子どもは自由に自信を持って表現することができます。
それは綺麗な形を褒めていたらできません。
自信を持った線から、形が生み出されるのはその後です。
上手な絵や、字なんかはもっともっとずっと後でいいんです。
幼い頃に、字が早く書けるのね、と褒めると
絵の中にも字を描いたりします。
キャラクターを模倣したりします。
線や点に自信をつけて自由に描くと誰一人同じものは生まれません。
子どもの描いた線や点の絵を見た時に
『これは、何を描いたの?』なんて聞かなくていいです。
子どもの自由な表現を説明させる必要はないです。」

私の覚えてる感覚で書いたのでちょっと違ってたらごめんなさい。

確かに、大人になって、形のないものを描くってできないかもしれない。
成長すると、形がないことに不安になる。
形がうまくできると安心できる。
これは何を作りました、って説明できないといけない気がするし、
うまくできてないことが恥ずかしくなって表現を諦めてしまう。

子どもたちも出来上がった形を褒められるばかりの中で、
線や点を褒められたらどれだけ嬉しいだろう。
自分の線に自信が持てるって、どれだけ誇らしいだろう。

粘土で「何を作ったの?」と聞かれずに
出来上がりの形を褒められるのではなく、
楽しく粘土に触れたことを「良かったね」、と言われたら
どれだけ嬉しいだろう。

この話を聞いていて、
学校教育はまさに形を褒められる教育だなあと思った。
結果出来上がった形を評価される教育。
形を作る線や点を認めてもらう経験が少ない。
だから自分の描く線に自信が持てずに迷う。
進む道を決められない。
敷いたレールを歩くしかないと思い込まされてしまう。
それを教える大人も自信がないからだ。

大人も、線を褒められた経験が少ないからだ。

15年前の園庭。今も変わらない!

私はいつも、この幼稚園に関わると
自分の幼少期を思って、胸がきゅっとなる。
すごく辛かった記憶もないけど、
すごく悲しかった記憶もないけど、
この幼稚園でもし過ごせていたら、と憧れが大きくなる。
そして、自分の子ども達を通わせていながら
私自身は寄り添い方が下手だったなあと今も反省する。

今回、連れて行った娘は今、保育科の学生。
今後保育に関わっていくこの時期に
自分が子どもとしてここに通っていた記憶とは
違う視点でこの幼稚園の保育の様子を見られて
園長先生のお話に触れられたのは
本当に良かった。
きっと、娘の財産になると思う。

私も今後、子どもに対しても、大人に対しても、
形を褒めるのではなく、線を褒めることの大切さを
忘れないようにしようと思う。
みんなが、自分の生み出す線や点に、自信を持とう。

自分が描く線や点は、きっと自分にしか描けないから。
形は、その線や点からできてくる。
形を作るのではなく、線を描こう。

この中瀬幼稚園、うちの娘が在園中に
ドキュメンタリー映画を作られました。
完全に保育中に、半年くらいの間、
撮影クルーが毎日園に常駐して普通に撮っていた。
完全に普段の日常保育を記録した映画。
うちの娘はちらっと一瞬映ってるくらいかな。
とっても素晴らしい記録映画なので、
ご興味のある方はぜひ。


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