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フットボールを生きる街 #13 ダービー

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“Las semanas previas a derbi se huele algo especial en la ciudad.”
- Ángel

「ダービーを控えた街には、特別な匂いがする。」

ダービーの前の週は、両クラブのライバル関係が最も浮き彫りになる。街は、セマナ・サンタやフェリアを迎えるときと同じように浮き足立つ。

すべてのセビジスタとベティコにとって、ダービーはまさに祭りである。通りはもっぱらダービーの話題に覆いつくされるのだが、やはり両クラブのサポーターがバルで同じテーブルを囲んで冗談交じりに議論を交わしているのがセビージャらしい。

無論、試合の日が近づくにつれ、ヴォルテージは高まってゆく。ポジティブな高揚だけではない。どこか不安でもあり、心臓をぎゅっと掴まれているような息苦しさもある。それは、唯一無二の緊張感である。

緊張と高揚が最高潮になるのは、もちろん試合当日のこと。一日中、街のどこにいてもいずれかのクラブのチャントが聞こえてくる。普段はのんびり家を出て、バルで一杯ひっかけてからキックオフ直前にスタジアムに到着するサポーターも、ダービーとなれば話は別である。

ホテルからバスでスタジアムに向かう選手たちを玄関口で待ち構え、拳を突き上げ、声を張り上げ、マフラーを掲げ、強く鼓舞する。「行くぞセビージャ、俺たちはチャンピオンだ」。チームに向かって歌いながら、自分自身にも言い聞かせるように。

アウェイゲームの日には、ベニート・ビジャマリンまで悠々と進むバスの後ろを、警察に先導されて威風堂々と行進してゆく。そのためにふたつのスタジアムを結ぶ道路は封鎖され、彼らだけのための道が開かれる。お祭り気分で浮かれる者、険しい顔で怒号をあげる者、自分たちが生み出すエネルギーに思わず涙する者、その楽しみ方は十人十色である。

一歩スタジアムの中に足を踏み入れると、吸い込む空気がいつもと違う匂いをしていることに気づく。透明に澄み切った、鋭い匂いだ。いつもの、明るく気まぐれな南の国のスタジアムは姿を消し、重厚な緊迫が張りつめる。

その空間から空に吸い込まれていくイムノは、どれほど選手たちを奮い立たせることだろう。もちろん選手にとってもダービーは特別な試合だ。勝てばタイトルを獲得したかのように喜びを爆発させるし、敗れれば涙を流す者もいる。

それらの特別な感情は、選手からサポーターへ、サポーターから選手へ伝染し、やがて色の異なる数ブロックを除いたスタジアム全体が共有するものとなる。

ひとときの交わりを終えると、街は徐々に日常を取り戻すけれども、しばらくダービーの残り香は居座ったままだ。敗けたほうはその話題を避けたがるが、勝者はいつまでも余韻に浸っていたいものである。ダービーとは、新しいダービーがやってくるまで「どちらが優れているか」を決めるための闘いなのかもしれない。

この闘いが特別で、美しく、こんなにも気高いのはなぜだろうと考える。ふと、これが奪うためではなく、守るための闘いであるからだと気づく。

勝っても相手を否定することはしないし、敗れても何か重大なものを失ったりはしない。日常にあるライバル関係同様、根元にあるのは相手への敬意、共存への感謝、たっぷりのユーモアと、ほんの少しの憎しみである。ただ、自分の誇りを相手に示すこと。それが相手のものより劣っていると思われぬように、ひたすらにそれを守ろうとすること。

暴力的な側面が切り取られてしまうこともあるかもしれないが、それは決して本質ではない。彼らは皆、激しくも健全で、だからこそ特別な「デルビ」を、愛してやまないのである。

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セビージャに暮らしていた1年間で、ダービーには4回行きました。

ビッグクラブを迎えるときや、タイトルをかけた一戦と同じぐらい、もしくはそれ以上に、サポーターたちの熱はものすごくて、ダービーがいかに大切な試合なのかを思い知らされました。

わたしはというと、例外なくダービーが大好きで本当に楽しみなのに、その日を迎えるのが怖くて、試合を直視できないほどの緊張感に襲われていました。でも、セビージャがゴールを決めて、文字通り張りつめていたものがやぶれたときに、一気に熱量があがる瞬間を感じるのがたまらなく好きでした。

意外と、セビージャとベティスのユニフォームを着たふたりが隣どうしに座っていることもありました。激しさが際立つダービーでも、街のおおらかさは随所に垣間見られます。

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1994年うまれ / 東京外国語大学⇒アライドアーキテクツ株式会社 / ソーシャルメディアプランナー / ガンバ大阪とセビージャFCが好き / スポーツ×ソーシャルメディア×まちづくりがしたい / 日本語と、英語と、スペイン語をはなします
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