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婚約指輪

「え?」「あれ?」「これ?!」

私の夫となる人は、「婚約指輪を贈る」という考えのない人でした。彼はドイツ人で、ドイツではそうなのか彼がそうなのか…「ダイヤの指輪と共にプロポーズは、アメリカ文化だ。」と言うのです。

でも婚約指輪は乙女の憧れ。
私の憧れ。

私は彼に、「日本では皆贈ってもらっているよ、給料の3ヶ月分って言うんだよ。私も憧れていたんだよ。」と、おねだりしました。
結婚したいと猛アタックしてくれたのは5歳年上の彼からで、私の願いは聞き入れられて、彼は「2人で選びに行こうか。」と言ってくれました。「ただ、給料の3ヶ月分は無理だよ。」と付け足しながら。
「もちろん!そんなに高価なものじゃなくて、普段も身につけられるものがいいよ!」

私達は、ジュエリー屋さんをはしごして沢山見てから決めようね、と街に出ました。彼と一緒に、憧れの婚約指輪を選ぶ!それはもう、ウキウキして。
それが、ジュエリー屋さんで「これはどう?」「これいいんじゃない?」と彼が提案してくる度に、私の中では冒頭の声が渦巻くことになったのです。

「え?」「あれ?」「これ?!」

彼が選んでくれるのは、どれも宝石の付いていないシルバーリングでした。高価じゃなくてもいいとはいえ、シルバーリング。どうしよう、どうしよう…と戸惑い、うろたえる私。これが彼の中での婚約指輪なんだ、買ってもらうのにもっと高価なものが欲しいなんて言えない。いいじゃないか、シルバーでも。今どき婚約指輪は無しでってカップルだっているのだし、気持ちが大事って言うじゃないか。でもでも小さくていいから宝石、ついていて欲しいな。。。
混乱し、段々とテンションが下がり反応の薄くなる私。気付いた彼が「どうしたの?」と聞いてくれると、私はもう涙目で、黙り込むしか出来ませんでした。
そんな私に驚いて、「何かあるなら言ってよ!どうしたの?!」と彼は私をカフェへ連れて行き、話を聞いてくれました。
私の涙は堪え切れずに溢れ出てしまい、落ち着くには甘いもの、と与えられたココアを飲みながら「思っていたものと違うの、シルバーはカジュアル過ぎる…。それに、小さくていいから宝石がついていて欲しいの。」と思いきって本音を話しました。彼は「そうなの?!萌が普段でも使えるものがいいって言うし、よくカップルがシルバーのカップルリングをつけるからと思って…。それに、僕達は家も準備しなきゃいけないしお金に余裕もないよ、そこはわかってね。じゃあ、今の僕に出来る範囲でだけれど、宝石がついたものを探そうね。」と言ってくれました。
私達は手を繋ぎ、再びジュエリー屋さんに向かいました。彼は「どれがいい?」と慎重に私の希望を聞いてくれて、私はおずおずと、普段から使えて服にも引っかからないデザインで…お手頃価格の…と、小さなダイヤがひとつはめ込まれたシンプルなデザインのゴールドリングを選びました。
「シルバーゴールドにする?それともゴールドにする?」とリングの色で迷い、2つを比べながら試着していると、彼が「どちらもにしよう!」と言いだし、「2つのリングをくっつけてもらえば、僕と萌が一緒にいるって意味になるよ!」と。

彼が考えていたのはシルバーリング。私達の婚約指輪はそれとは違うものになりました。そして、私にとってそれこそ大切な意味を持つ婚約指輪となったのです。

白と金のリングがくっつき、小さなダイヤが2つ並んだこの婚約指輪を見る度に、私は、私の様子の変化に気づき根気強く理由を尋ねてくれた彼、私の想いを尊重してくれた彼、更に彼の想いも加えてくれたこと「僕と萌が一緒にいるって意味」を思い出します。

私の我が儘だったとわかっています。確かに色々なことにお金が必要だったから。それでもキラリと輝く婚約指輪が欲しかった、そんな私を想ってくれる、優しい人。

結婚生活、時には喧嘩もするけれど、今では表面に幾つもの傷がついたこの婚約指輪が何度でも、私もこの人を大切にしようと、感謝と共に心に誓ったあの時の想いを甦らせてくれる。夫婦生活の御守りです。


2020年 Happy Valentine's Day


ありがとうございます。励みになります。 頑張って更新しますね。夫と美味しいものを食べたいな。