なぜ著者や編集者は「書店で買ってください」「初速が大事なんです」と言うのか
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こんばんは。順調にnoteを更新しているということは、「仕事はできないけど、そこそこ生きてはいる」くらいのステータスです。どうぞよろしくお願いします。
さて、このnoteのお題は掲題の件についてである。「正直みっともないからやめてほしい」という人も多かろう。でもいまのところこれしかないのである。そんなわけで、ご興味の向きはよろしくお願い申し上げます。
いったい、出版産業というのはかなり旧態依然とした──しかしこれが一挙に崩壊しない程度にはよくできた──システムで成り立っている。
このあたりは出版流通の本を一冊読めばわかるし、ググっても出てくるので割愛する。
ともあれ、出版業界は順調に右肩下がりを続けていて、この20年ほどで売上が約半分になった。
現在の業界規模は1兆7千億弱と思われるので、実に狭い村であることがわかる。また、このうちだいたい10%ほどが電子書籍の売上であり、さらにそのうち70%を漫画がしめている。
こと漫画市場に限っては、かなり電子書籍で買う読者が増えてきたと言えるだろう。
しかし、それでも漫画家や編集者は、「できれば書店で(つまり物理書籍で)買って欲しい」、「初動が大事なのでよろしくお願いします」と言う。
これはもう、システム的な問題で、ひとりの漫画家や編集者がどうにかできる問題ではない。
いったい、出版社における売上(実売)の把握は、基本的にPOSシステムを通じて行われる。ただ、これは書店チェーンや取次(卸業者)ごとに乱立していて統一されていない。
また、POSデータにしても日次で取れる店と週次で取れると月次で取れる店があったりもする。
各社の販売部や営業部はこれらのデータを掛け合わせて、過去の類書の売行きデータや書店からのバックオーダー数を参考にしつつ、1週間や1ヶ月、あるいは6ヶ月(新刊委託期間終了時)の販売予測を立てて、在庫量を見ながら重版をかけるかどうか決める。
漫画などの連載作品については、大まかなデータが出揃う半月、あるいはひと月程度で1巻目のだいたいの数字が見えることになる。
この時点で「半年の予想消化率が30%です」みたいなことになれば「即打ち切りです」となる。
最近はとにかく判断が早いので、すぐ打ち切りになるし、最終巻は紙の単行本が出ないどころか電子書籍すら出ないということもザラにある。
ここまで読んで、違和感を覚える人も多いだろう。そう、「漫画って電子で買う人増えてるんじゃないの?」という話である。
これは実は紙の本より深刻な問題があって、基本的に電子書籍の実売データというのは、紙の本よりリアルタイムで把握することが難しいのである。
現在、漫画の電子書籍を売っているストアは国内でおおよそ200を数える。版元は当然その全部と直でやりとりなどできないので、「電子取次」という流通が間に入ることになる。
そして、ストアごとに締め日は違うし、当然入金のタイミングも違う。どこかのストアが自腹を切ってセールをしていても、作者はもちろん版元すらわからないこともある。
こんな具合であるから、版元の営業マン(かつて僕もこれだった)に、「各ストアのランキングをチェックして、電子の方も目配りしてくれ」なんていうのはかなり無理な要求だろう。現実的には現時点でできない。
つまり、電子書籍についてまとめると、究極的には入金がないと「電子で売れているかどうか」はわからない。
ゆえに、「この作品が売れているかどうか」は、電子よりも確認しやすい紙の本の初動によって判断されるわけである。
書店数が減り、初版部数が減り、電子書籍ユーザーが増えているこの時代に、ニーズを充分に汲み取るために最適な方法ではないと思う。けれども、現状ではそうするしかないのである。
この仕組みが何年かすれば変わるのか、変わるとすればどういう風に変わるのか……それは僕にはわからない。
だから僕はいま、フリー編集者としても漫画原作者としてもこう言うしかない。
「初動が大事です、できればリアル書店で、紙の本で買ってください」
なお、読者としては、電子書籍で買って面白かったものは、紙の本でも買うようにしている。そして、好きそうな友人にプレゼントしたりする。Twitterでも宣伝するし、なんなら5冊くらい買う。
なんとも迂遠で矛盾した方法だが、愛する作品を生き延びさせるためにできる努力は、今のところこのくらいしかないのである。
さて、最後に少しだけ宣伝をさせていただく。僕が原作をつとめる『半助喰物帖』というほっこりグルメ漫画がある。つい先日単行本一巻が発売になった。一話はここで試し読みできる。
本作も初動が大事である。どうかよしなにお願い申し上げ候。
(これより下に文章はありません)
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