【Report】コンセプトに全力で寄り添った創作の結末 / 個展会場の音楽制作
3/21(火・祝)~3/26(日)まで、神戸三宮にあるアート○美空間Sagaにて開催された「斉藤真人個展 〜曖昧な記憶の余韻の中で〜」。期間中に流れ続ける、会場内の空間音楽を制作しました。
最終日には、会場にてピアノ弾き語りライブも担当。「言葉と音の創作家」と名乗りだして以降、初のお仕事となりました。
でき上がった4つの作品のダイジェストと会場の様子は、ぜひこちらをご覧ください。会場内は、薄暗い部屋の中で音楽と絵画の世界に没頭できる「闇空間」、かすかに聞こえる音楽と色彩の鮮やかな作品を楽しめる「光空間」の2つに分かれています。
この記事ではプロジェクトの記録として、依頼をいただいた背景から制作過程、ライブ当日の様子まで、たっぷり語りました。いろいろと巻き起こる展開に、時々現れる謎キャラ(?)まで、葛藤と全力投球っぷりを楽しんでもらえると嬉しいです。
依頼の背景
きっかけは、Instagramでの音の創作
斉藤さんとは、以前働いていた職場で知り合いました。何度か展示を拝見したり、カフェでの個展の際には会場でライブさせてもらったこともあります。
今回の依頼は、私のInstagramでの音の創作に興味を持ってもらえたのがきっかけだったそうです。今年の1月、「いつかやりたいと思っていた、音楽とアートを融合したインスタレーション展示をご一緒できないか」とメッセージをいただきました。
去年の夏頃からInstagramにて、こんな感じの映像にピアノインストをつける創作に挑戦していました。ゆくゆくは、何か映像コンテンツや空間の音楽制作に携われたら…なんて気持ちもあったので、まさに!なご依頼に二つ返事でOK。プロジェクトがスタートしたのです。
制作過程・制作物のコンセプト
やってみたかった、とはいえ。これまで私がやってきたのは、ピアノ弾き語り用の歌の制作がほとんど。でも今回の依頼は、言葉で作品のイメージが限定されてしまわないようにと、歌をつけないインスト曲の制作。また何かのコンセプトに合わせて作曲するという点も、ほぼ初挑戦でした。
他にも、制作過程でぶつかった壁がいくつかあったので、乗り越えた4つのミッションに沿って振り返っていきます。
【Mission.1】まだない作品をイメージして音楽を制作せよ
依頼を二つ返事でOKしてから、さっそく打ち合わせ。メッセージをいただいたときは「斉藤さんの作品を見て、イメージを膨らませながら作曲する感じかな」なんてぼんやり考えていたのですが…。
その日はまだ1月中旬。個展に向けた作品ができ上がるのは早くても2月、ということでその流れでは制作できない…!これが最初にぶつかった大きな壁でした。
個展のテーマやイメージを聞かせてもらったり、HPの説明文を見せてもらったりしたものの、それでは情報が足りなくて2つの会場へ足を運ぶことに。
まず訪れたのが、個展会場である「アート○美空間Saga」さん。ちょうど別の展示中だったので、アートにも触れながらの会場見学。広さや雰囲気を実際に見て、用意する音響設備やイメージの参考にしました。
そしてもう一つ訪れたのが、京都亀岡にある「点と線」さんで行われていた斉藤さんの展示。
これまでも斉藤さんの作品を拝見したとき、なぜか色彩が気になっていたんです。作品によって違うけれど、何か繋がりがあるような…。その謎がこちらの展示で作品やタイトルを見ているうち、スッと腑に落ちてきました。
もしかしたら「空の光の色」なんじゃないか。
雨の日の淡い青、朝の優しい黄色、街を染める夕暮れの赤…。そう思うと妙に納得してしまって(あくまで個人の解釈ですが)。
音楽でも様々な「光」を表現したい。そうすれば「作品を見て風景を創造してほしい」という、斉藤さんの作品との相乗効果が生まれるかもしれない。
ちょうど依頼のきっかけとなった動画につけた音楽が、「雨のむこう」というオリジナル曲の冒頭でした。この曲をインストバージョンにするのもいいな。暗闇から始まって、雨、朝、そして夕方からまた夜になっていく…そんな流れにしようかな。
なんせとにかく初めてのことだったので、正直展示に足を運んでも何も浮かばないかもしれない…と、ダメ元だったのですが。思いがけず音楽のコンセプトが決まって次々とアイディアが浮かび、ほくほくでした^^
【Mission.2】個展会場に合うライブを企画せよ
ちょうど、音楽のコンセプトが決まった頃、斉藤さんから「個展期間中に生演奏ができないか」と提案をいただきました。アート○美空間Sagaさんでは、よく音楽のイベントもされているそうです。
個展会場でのライブ。めったにできないことだなと惹かれつつも、これには二つ返事とはいきませんでした。
制作しているのは、様々な楽器の音を入れたインスト曲。ライブで弾けるのはピアノだけなので、どうしても寂しい感じになってしまう。また、これまで弾き語りでライブをしてきた私にとって、ピアノのみの演奏でお客様を楽しませる自信はありませんでした。
とはいえ、個展に関係ない歌を歌うのもなぁ…と思っていたとき、ひとひらのメロディが舞い降りてきたんです。
「個展に合う歌がないなら、作ればいいじゃない」
突然スイッチが入り、歌を作り始めました。たまたまだけど、そのメロディはどことなく夕暮れっぽい雰囲気だったので、今回のコンセプトにも合う。この歌をインストにすれば、個展用の音楽のうち2曲には歌詞があることになる。
「会場に流れているのは言葉のない音楽だけど、最終日のライブではその音楽についている言葉が聴ける」
そんなふうにすれば、一口で二度おいしいな〜と。ライブの企画を考えたおかげで、また新たなコンセプトが生まれました。
また歌の歌詞も、初の試みで制作。これまでは私が伝えたいイメージを言葉に落とし込む形が多かったのですが、今回の個展のテーマのように、聴いた人がイメージできる余白がたっぷりあるような歌にしてみたかったんです。
そこで、個展のテーマから言葉を抜き出し、斉藤さんの作品を思い浮かべながら出てきた言葉を書き出し…。それらの言葉を繋げていくことで、一貫したテーマがあるようでないような曖昧な歌詞を作ってみました。今までの私の歌にはない、新しい歌になった気がします。
【Mission.3】数点の素材から告知動画を作れ
3月に行なった3回目の打ち合わせにて、「告知動画のようなものが作れたらいいね」という話に。これも作品を見ながら考えようと思っていたら、斉藤さんのアトリエの都合で私が撮影しにいくことは難しくなりました。
そこで数点、作品の動画や写真を送ってもらったのですが、映像のプロではないので、一体何をどう組み合わせたらいいのやら…泣
なかなか途方に暮れましたが、まずは告知動画用の音楽を制作。歌は作っていましたが、動画専用のアレンジを作りました。
音楽ができると自然と、映像の流れも見えてくるもので。初めて使う映像エフェクトなんかも入れながら、なかなか納得のいく仕上がりになりましたので、見てね^^笑
【Mission.4】音楽をもっと届けよ
搬入日前日、ようやく4つの音楽作品が完成しましたー!!ちょっと時間配分なめてた…笑
3/19(日)に会場へ行って音量調整などを終え、3/21〜無事に個展がスタート。最終日のライブに向け、久しぶりにスタジオ練習をしたりと準備を進めていました。
そんな木曜の夜、斉藤さんから連絡が。なんと「音楽が素敵でCDはありますか?」と会場のオーナーさんに聞いた方がいらっしゃったそう!斉藤さんからは、以前のCDなどを持ってきてはどうかと提案をいただきました。またオーナーさんから「ライブ当日は配信もしてみてはどうか?」とも。
音楽を持ち帰りたいなんて、嬉しすぎる誤算。ただ今回の曲とは関係のない歌のCDを持っていってもなぁ…と思っていると、またしても私の中のマリーアントワネットがこう囁きました。
「音源があるんだから、CDを作ればいいじゃない」
といっても、裸のCDをほいっと渡すわけにはいかないので、そんな簡単じゃないんだけどね。ただそう思ってからは、自分でも引くほどの凄まじい行動力を発揮。笑
4つの音楽作品に加え、今回のために作った歌をレコーディングし、個展のタイトルにも合うよう、半透明のトレーシングペーパーにデザインしたタイトルを印刷。たった2日でCDを制作してしまいました。きっかけとなった方にもお渡ししたかったなぁ。
またライブ配信も、一人で設置して一人でライブして…というのがもたつきそうで、今回は辞めておこうかと思ったのですが。「迷うくらいならやってしまおう!」そんな熱い魂が目覚め、14時の回のみインスタライブをすることにしました。
*
このように、思い返せば最初に決まっていたのは音楽を制作することくらいで。それでもくるくると展開していくうち、たくさんのミッションを達成していました。何事にも全力でベストを尽くしている様子が、少しでも伝われば幸いです…笑
ライブレポート
3/26(日)。雨。個展期間中はあいにくの天気の日が少し続きましたが、それが今回の展示の良さを引き立ててくれていたようです。
ライブは14時〜(インスタライブでも配信)と15時からの2ステージ、各20分。会場内の空間が限られていたため、少しでも多くの方に来てもらえるよう2ステージにしました。ダイジェストはこちらからお楽しみください。
とても響きの良い空間だったので、スピーカーは通さず生音で演奏しました。作品の制作中も思っていたのですが、音楽は時間の芸術。だから絵画が作り上げる空間芸術に何かできることがあるなら、きっと流れを作ること、動かすことだろうと。
普段の生活でなかなか動かす機会の少ない感性を、音楽のエネルギーで柔らかくストレッチできたなら。そんな想いでMCでも「何を感じるかを大事に」と声がけしながら、演奏させてもらいました。
私にとっては1年ぶりのライブ。空気を動かす、なんてとこまで最初は意識が向きませんでしたが、自分の凝り固まった部分もほぐしながら歌えた気がします。そんな時間が提供できていますように。
お客様の声・プロジェクトを終えた所感
闇空間(音楽を設置した薄暗い空間)が今回の個展のメインだと感じた
雨の音がいい。雰囲気と合う
流れてくる音楽によって作品の印象が変わる
音楽がいい。いつまでもいたくなる
音楽のCDがほしい
アートと音楽のコラボという珍しさもあってか、音楽のある空間はとても好評でした。普段はすぐに帰ってしまう常連のお客様も、闇空間は約10分間、じっと音楽も楽しんでいたとオーナーさんから教えていただきました。
作品から浮かぶ風景に音楽から浮かぶ風景が掛け合わされば…と思いながら制作したので、「音楽によって印象が変わっていく」というお声は特に嬉しかったです。また私自身も一人で闇空間にいると、感性が刺激されて非日常な体験ができた感覚があり、改めて音楽の力を再認識しました。
今回、いろんな提案や自分で考えたアイディアに体当たりでぶつかってきた結果生まれたのは、「私、案外なんでもできるな」という実感を伴った小さな自信でした。そしてやはりコンセプト作りが何より楽しい、という気づきも。
私はこれまで自分が感じたことを、音や言葉にしてきた。それは誰かとコラボしても変わらないし、とても役立つ力だと今回わかりました。これからはもっと、人の頭の中を形にするお手伝いやコラボならではの新しいエネルギーの創出に力を入れたいです。
何かおもしろそうなコラボレーションができそうなときは、ぜひ気軽にお声がけください^^(今後cankotoのサービスとして、もっと展開していけたらと企んでいます)
今回、貴重な経験の機会をいただいた斉藤さん、いつも素敵な笑顔で迎えてくれたオーナーの正田さん、そして足を運んでくださったみなさん、本当にありがとうございました!
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