たい焼きについて いっちょまえに語ってみる

たい焼きについていっちょまえに語ってみようと思う。
たい焼きのクリーム味を頼むと、たい焼き通から「邪道」と言われそうだが、私はたい焼きのクリーム味ほど、カスタードクリームを一番美味しく感じられる食べ物はないと思うのだ。

熱々のカスタードクリームを口にできるスイーツなど、そう多くはないのではないか。
シュークリームや、プリン、ケーキに添えられたり挟まれているカスタードクリームはひんやりとしている。
私はスイーツにそう詳しくないので、断言はできないが、自分の人生の中で熱々のカスタードクリームを口にできる食物は、大判焼きと、たい焼きぐらいだ。
では大判焼きではなく、なぜたい焼きがいちばん、などと論ずるのかと言うと、やはりそこは生地、これに尽きる。
たい焼きの生地は無味だ。小麦粉と、もしかしたら砂糖も入っているのかもしれないが、普通の人には感じられない程の量で実にプレーンな存在。味のない生地は、つまりカスタードクリームそのものの味を一切邪魔しない。
故にカスタードの甘み、とろみ、風味を全力で感じ取れる環境のなのである。

また、たい焼きは、頭、胴体、尻尾によって焼き具合も厚みも異なる。
頭のアーチの強い硬めのフォルム部分の生地は、些かハードでカリカリしている。胴体部分は生地が薄いため、存分にカスタードを楽しめる。尻尾は焼き上がりの最上級。クリームが入っていない場合が多いと思うが、いわばここは口直しゾーン。カスタードクリームの余韻、たい焼きの生地、トータルに浸る場所だ。
生地の焼き具合によってクリームの風味も雰囲気も変わる。
かぶりつく部分によって変貌するたい焼き。実に奥深い。

これが、あんこだといけない。
あんこはその存在が大きすぎるのだ。
甘み、粒、香り。
全ての主張がつよすぎて、生地の存在が消えそうになる。
しかしクリーム味は違う。たい焼きの生地の旨さも、カスタードクリームの旨味も互いに互いを尊重している。見事。その一言に尽きる。

最近はあまり見かけないのだが、“尻尾まであんこたっぷり!クリームたっぷり!”系のたい焼き。
一時期、どこでたい焼きを買っても尻尾まで入っていることがあり、尻尾は生地だけ派の私は眉根を顰めていたが、今もやっているところはやっているのだろうか。

尻尾は生地オンリー派である私だが、なぜそうかと言うと、
いわば、たい焼きの尻尾は映画のエンドロールと同じであるからだ。
本編であるたい焼きの生地と中身の余韻に浸るためのもの。
ひとつの物語をゆっくりと噛みしめる時間。
ああ、こんなこともあった。あそこが良かった。あれはイマイチだっがその後のアプローチが見事だった、など反復する。
本編が終わった瞬間に席を立つ観客を、「なんだなんだ粋じゃないな。」と思うものだが、たい焼きに対しても同じだ。
尻尾にまで中身があると、映画のエンドロールに画像が盛り込まれているような、ピクサー映画のような。映像にスタッフロールが流れいてるような映画を観ている気分になる。
あれはあれで、すごく好きだが、全ての映画があれだと少々胃もたれしてしまう。
やはり作品がまだ終了していない間に、まだ作品を鑑賞している間に、思い出を浸りたい。

全くもって私はたい焼き評論家でもなんでもない人間だ。
歩いていてふと、たい焼き屋台があったら、ひとつ買うか、と思うくらいの愛情である。
だが、世の中にクリーム味を買いたいが、なんか通の人に怒られそう、と人目を気にしてしまう人がいたら、そんな人に堂々と買って良いと思いますよ、と伝えたかった。
クリーム味に手を出せない皆さん。
胸を張って買いましょう。
レッツクリーム。

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